約 1,718,609 件
https://w.atwiki.jp/hokkaido21/pages/114.html
戻る 携帯サイトを推薦する 北海道ナビ by 携帯サイトに北海道の携帯サイトをご紹介下さい。 携帯サイトはとても便利なのに、まだまだその数は少なく、毎日検索しておりますが見つけるのが困難なのが実情です。 地域に密着した携帯サイトを見つけた方は、ぜひこちらの掲示板で推薦をお願いいたします。 お名前 携帯サイトを推薦する すべてのコメントを見る 札幌のガソリンスタンドのレンタカー ちょいのりのページを推薦します。 http //www.choinori.jp/m/ (苫小牧/旭川でもサービスしています) -- (杉澤 謙次郎) 2009-05-03 09 19 06
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6549.html
前ページ次ページラスボスだった使い魔 (アドレナリンやドーパミンの量を調節して、強制的にガンダールヴの効力を底上げさせる……駄目だな、理性を保てる保証がない。因果律を操作すれば何とかならないでもないが、調整を誤れば廃人になりかねんし……) こういう時、生まれつき特殊能力を持っているタイプの種族は悩まなくて便利だな……などと思いつつユーゼスが自分の強化方法について思考を巡らせていると、 「ユぅぅぅぅぅぅゼスぅぅぅぅぅうううううううっっ!!」 「!」 木陰から全速力でルイズが走って来て、悩んでいる最中のユーゼスに飛びついた。 そして『自分がユーゼスの言いつけ通りにやった』ことを、まくし立てるようにアピールする。 「ね、ね、ユーゼス。わたし、ちゃんと出来てたよね? ユーゼスに言われた通り、ちゃんと爆発起こしたよね? そのほかのこと、何にもやってないよね?」 「……まあ、そうだな」 これはその通りなので、ユーゼスとしても認めるしかない。 ルイズはその言葉を聞いてパア、と顔を明るくすると、自分の身体を盛大にユーゼスにこすり付け始める。 「それじゃあ、わたし、ユーゼスとお話をしてもいいのよね。いっぱい、いーっぱい、お話をしましょう。ね?」 「露骨に身体を密着させるな、御主人様。変な気分になってくる」 そんなルイズに辟易しつつ引き剥がそうとするが、言って従ってくれるようならば最初から苦労はしなかった。 取りあえずやんわりとルイズを拒絶しつつ立ち尽くしていると、離れた地点で様子を窺っていたエレオノール、そしてシュウとミス・ロングビルがやって来る。 「ああもう、ルイズ! 『ユーゼスにベタベタ引っ付くんじゃない』って何度言えば分かるの、もう、はしたない!!」 「……フンだ、わたしの時代はエレオノール姉さまの時代と違うんだもん。女の方から積極的にいっても大丈夫な時代なんだもん。オバサンは後ろの方でじーっと手をこまねいてればいいんだもん」 「オ、オバ……っ!?」 ビキリ、とエレオノールの顔が引きつった。 それを意図しているのかいないのか、ユーゼスがポツリと呟く。 「その理屈で言うと、私はオジサンか……」 実際の年齢は『お爺さん』なのだが外見年齢で言うならばエレオノールとほぼ同い年なので、彼女を『オバサン』とするなら『オジサン』と呼んで差し支えはあるまい。 「やん、ユーゼスは『オジサン』じゃないわ。だって心が若いもの。そしてわたしは心も身体も若いわ。ついでに言うと、エレオノール姉さまは身体もそうだけど心がオバサンだわ」 恋は盲目、とはよく言ったものである。 まさか今のユーゼスの様子を見て『若い』という単語が浮かぶとは。 そしてその『若い』という範疇から除外されてしまった女性はと言うと……。 「ほ、ほぉう……。そんな風に思ってたの、ルイズ……。へぇえ……」 表情その他を小刻みに震わせながら、暴言を吐いた妹に詰め寄りつつあった。 『踏み込んではいけない領域』に踏み込んでしまったことに今更ながら気付いたルイズは、しかしこれ幸いとばかりにユーゼスに救いを求める。 「きゃっ! 怖いわユーゼス、オバサンが図星を突かれて逆上してくるの!」 「うるっさいわね、どこからどう見ても子供にしか見えない幼児体形のくせにっ!!」 「はあ? 姉さまの胸のサイズで、そういうこと言われたくないんですけどぉ~?」 「あなただって同じくらいでしょうが!!」 「でもぉ、よーく見比べてみたんですけどぉ、胸の大きさならぁ、わたしの方が勝ってませんかぁ~?」 「んなっ……、そりゃあカトレアに比べれば負けてる『かも知れない』けど、あなたに負けてるってのは心外だわ!!」 ユーゼスを挟んでキーキー言い合うヴァリエール姉妹。 (胸が大きいからと言って、何かメリットがあるのだろうか……?) そう思うユーゼスだったが、余計なことを言うと例によって例のごとく不可解な事態になりそうなので黙っていた。 と、そんなやり取りを続ける一同に向かって、シュウが問いかける。 「……どうでもいいのですが、『コレ』はどうするのですか?」 シュウが指差したのは、中に水の精霊の襲撃者の入った青銅のタルである。 「中を開けてみる、って言うのは……」 「……水死体なんて見たくないわよ、わたし……」 おっかなびっくりな様子のギーシュとモンモランシー。だが、それに対するシュウのセリフで二人の表情は一変した。 「いえ、おそらく中の人間はまだ生きているでしょうね」 「え!?」 「そ、そうなんですか!?」 驚く二人に、シュウはサラリと説明する。 「ええ。もちろん、このまま放っておけば確実に死にますが」 「なら、助けるべきでは……?」 そう提案するギーシュだったが、即座にユーゼスから反対意見が出された。 「甘いぞ、ミスタ・グラモン。その中にいるのは所詮『敵』だ」 「で、でも、殺さなきゃいけない理由はないだろう!?」 「生かしておかなければいけない理由もない」 「……うぅ……」 理屈ではユーゼスには勝てない……と半ば屈しかけるが、それでもギーシュはどうしても諦めきれないようだった。 ともあれ、議論している間にもタイムリミットは迫っているのだが。 と、そこに、 「きゅいきゅいきゅい~~!!」 「きゅるきゅるきゅる~~!!」 いきなり空の彼方から青い風竜と、その背に乗ったサラマンダーが飛来してくる。 「敵ですか?」 「おそらくこの中に入っているメイジの使い魔だろうな。殊勝にも主人を救いに来たらしい。……だが、風竜とサラマンダーだと……?」 「……何だか嫌な予感がしてきたんだが……」 「…………奇遇ねギーシュ、わたしもよ」 『倒してしまった二人組』について、おおよその察しが付き始めてきたユーゼスとギーシュとモンモランシー。 「おや、どうしましたみなさん? この二体を倒さないのですか?」 「……メイジを倒しておいて、どうして使い魔を倒さないのよ?」 シュウとエレオノールは『この使い魔たちの主人と思しきメイジ』と直接の面識がないため、何故ここで攻撃を止めるのか分からないようである。 「きゅい! きゅいきゅいきゅい!!」 「きゅるきゅるきゅるきゅる!!」 面識があるような気がする風竜とサラマンダーは何かを必死に訴えているが、人間にはその言葉が理解出来ないので判断のしようもない。何の面識もない赤の他人の使い魔である可能性も、ゼロではないのだ。 ……そして、タルの中のメイジを解放した途端に逆襲される可能性も。 「せめてこの二体の言葉が翻訳でも出来ればな……」 どうしたものか、と悩むユーゼス。 すると、意外なところから判断材料が舞い込んできた。 「あ、あたしなら使い魔の皆さんの言葉が分かりますよ」 「……何?」 「おやチカ、そうなのですか?」 シュウの肩に乗っている青い鳥の姿をしたファミリア、チカである。 「種別は違えど、同じ使い魔ですしね」 えっへん、と胸を張るチカ。そして不適かつ自信たっぷりに言葉を続ける。 「ククク……、このあたしの力を持ってすれば、ハルケギニアの幻獣と意思の疎通を行うことなど造作もないことですよ……。 いやー、一度言ってみたかったんだよなー、このセリフ」 「―――前置きはどうでもいいから、とにかく通訳を頼む」 「はいはい」 そして、チカを通訳とした風竜たちとの会話が始まった。 「きゅいきゅいきゅい!!」 「えーと、『お姉さまを早くそこから出すのね!!』だそうです」 「お姉さま? 名前は分かるか?」 もう大まかな目星はついているのだが、違う可能性も捨てきれないので確認を取ってみる。 「きゅいきゅい!!」 「きゅるきゅるるる!!」 「そっちの青いでっかいのの主人がタバサで、こっちの赤いのの主人がキュルケって名前だ、と言ってます」 「ああ~、やっぱり……」 「よ、よりによってクラスメートを……」 ギーシュとモンモランシーは二人揃って『うわあああ』と頭を抱えて後悔に苛まれる。 (……事が済んでから後悔するくらいならば、始めからやらなければ良いだろうに) まあ、後悔とは先に立たないからこその『後悔』なのだが。 「しかし、相手がミス・タバサとミス・ツェルプストーだったとはな」 確証を得たことで、この数奇なめぐり合わせを怪しむユーゼス。 ……ルイズとミス・ロングビルが惚れ薬を飲み、解除薬の材料が品切れで、水の精霊と直接交渉しにラグドリアン湖に向かい、その水の精霊から頼みごとをされた。 その『頼みごと』と、タバサとキュルケの二人の事情(どのような事情があるのかは知らないが)が合致する確率はどれほどだろうか。 「きゅいきゅい!! きゅいきゅ~いっ!!」 「きゅるきゅるきゅるっ!」 「『シルフィたちが出て来た時点で、そのくらい気付くのね、この馬鹿!!』、『いやそんなことはどうでもいいから、早く御主人様を出してくれよ!』だそうです」 通訳のチカの言葉を聞いて、一同はハッと事態の深刻さに気付く。 「……ユーゼス、まさか『二人を助ける理由は無いから、助けるな』とは言うまいね?」 「…………お前は私を何だと思っている、ミスタ・グラモン。あの二人には色々と借りもあるからな、『止めろ』などと言いはせんよ」 「言いそうで怖いんだよ……」 妙な汗を流しつつ、ギーシュはバラの造花を振る。 すると青銅のタルは光と共に消失し、中に閉じ込められていた大量の水と、ワルキューレの腕に拘束されたタバサとキュルケが現れた。二人とも黒いローブのフードはめくれ、素顔があらわになっている。 「む?」 「これは……」 出て来た二人を見て、ユーゼスとシュウの表情が少し動いた。 (……いかんな) ほんのわずかに焦った様子のユーゼスは、素早くギーシュとモンモランシーに指示を送る。 「ミスタ・グラモン、拘束を解け。ミス・モンモランシ、二人が飲み込んだ水を吐かせろ」 「あ、ああ」 「分かったわ」 『腕』が霧散し、タバサとキュルケの口からゴブリと水が吐き出された。 「……ミス・ヴァリエール、御主人様を抑えていろ」 ある程度の量の水が排出されたことを確認すると、次にエレオノールに指示を飛ばす。 「え? いいけど……何をするの?」 「あの二人を触診する。触る度に邪魔をされたのでは正確な診療と治療が出来ないのでな」 「『診療』と『治療』……って、あなた医術の知識なんてあったの!?」 「『医術の知識』と言うよりは『生物学の知識』と言うべきだが。簡単な医療行為ならば可能だよ」 これは本当である。 かつてユーゼスが多くの星の大気浄化を行った際には、環境汚染の度合を測るためにその星に生息する動植物などを詳しく調査する必要があった。 また、自分の複製人間であるイングラム・プリスケンを『作った』のは、他でもないユーゼス・ゴッツォである。 人体の構造やその正常なコンディション程度ならば、完璧に把握しているのだ。 「……あなた、そういうことはもっと早く言いなさい」 「今まで質問されなかったし、言う必要もなかったのでな。……ともあれ、御主人様を抑えておいてくれ」 そしてユーゼスが、倒れたまま動かないユーゼスが二人に駆け寄った。 ……その光景を見たルイズがギャーギャーと喚いているが、そこは無視する。 続いてペタペタと二人の身体を触り、念のためクロスゲート・パラダイム・システムも使って二人の因果律も調べてみると……。 (…………不味い) 死んではいないが、危険な……と言うか、既に手遅れな状態だった。 放っておけば死ぬのは間違いないし、適切な処置をしたところで脳か身体のどちらか……あるいは両方に深刻な後遺症が残るのは間違いあるまい。 (事前のやりとりに時間をかけすぎたか……) まさに後悔先に立たず、である。 「……どうします、ユーゼス・ゴッツォ? 『このままでは』そのお二人は危険ですよ?」 「分かっている」 わざとらしく声を上げるシュウに、少し不機嫌な素振りで返すユーゼス。 おそらくシュウは、一目見ただけで二人が危険な状態にあることを看破しているはずである。 そしてこの二人を救えるのは、少なくともこの場においては自分とユーゼスしかいないことも理解しているはずだ。 (…………やむを得んか…………) 出来ればシュウにやってもらいたかったが、あの男が頼みごとや命令に黙って頷くタイプの人間ではないことは承知している。 ならば、自分がやるしかない。 (半分程度は私の責任のようなものだからな……) 正直に言って、非常に気が進まない。 しかし恩人を見殺しにするのも、後味が悪い。 「……………」 ユーゼスは憮然とした表情で、まずはキュルケの状態……因果律を調べてみる。 (頭蓋骨にヒビ、脳内出血……これは青銅のタルにぶつけた時に出来たものか。あとは酸素欠乏性に、内臓を幾つかやられているな……) 症状の把握が出来れば、あとはそれを『健常な状態』に調整するだけだ。 (……そう言えば、このように因果律を操作するのは初めてか) ガイアセイバーズにやられた異次元人ヤプールを復活させたり、超神形態の自分の身体を再生させたことはあるが、他人の治療に使ったことは今までにない。 (ハルケギニアに召喚されてからというもの、初めて尽くしだな……) しかも、よりによって人命救助とは。 まさかクロスゲート・パラダイム・システムをこんなことに使うとは思ってもみなかった。 「……………」 ともあれキュルケの背中に手を当て、気付けを行う『振り』をする。 そしてその身体の因果律を操作し……。 「……ッ、ゲホッ、ゴホッ!! ッ、カハ、……ッッ! ……あ、あれ? 確かあたし、水の中に閉じ込められて……? って、ギーシュにモンモランシーにユーゼスに、ルイズとそのお姉さん? ミス・ロングビルまでいるし……見慣れない顔もいるけど。どうなってるの?」 『健常な状態』に調整する。 (これでミス・ツェルプストーに関しては問題ない……) 続いてはタバサである。 (…………脳死する一歩手前か。肺にもかなりダメージがある。かろうじて心停止はしていないが……) メイジが脳死にでもなったら、その使い魔はどうなるのだろうか……などと考えつつ、キュルケと同じようにタバサの因果律を操作して、『健常な状態』にする。 「カハッ! ……ゲホ、ゲホッ……! ……? ユーゼス・ゴッツォ?」 これでよし。 そう言えば前にハルケギニアで一度だけ超神形態になった時にも、このタバサという少女が絡んでいた。 因縁と言うか因果と言うか、そのような巡り合わせでもあるのだろうか。 (『例外』はこれのみにしたい所だが……) とにかく自分に原因がある場合か、余程のことがない限り、こういう因果律の操作は絶対に行わないようにしよう……と固く決心するユーゼス。 ―――その『固さ』がどの程度の物なのかは、決心した本人にも不明ではあったが。 「……まさか、クラスメートに殺されかけるとは思わなかったわ。しかもあんな……えげつない方法で」 「いや、それは謝ってるじゃないか、こうやって! ちゃんと! って言うか、方法を考えたのは僕じゃあない!!」 「実行したのは、あなたとモンモランシーじゃない」 「うう……。言わないでキュルケ、今でもけっこう罪の意識に襲われてるんだから……」 嫌味ったらしくネチネチとギーシュたちに文句を言うキュルケ。 どうやら戦いの結果とは言え、あのような扱いを受けたことが相当腹に据えかねているらしい。 「まあ、どうせユーゼスが考えた方法なんでしょうけど……」 キュルケはそう言ってチラリとユーゼスの方を見ると、その近くに立っている男にようやく意識が向いた。 「あら、いい男じゃない」 標的を見定めるや否や、キュルケの行動は早かった。 ギーシュとモンモランシーへの嫌味を即座に切り上げると、乱れた髪や衣服をサッと直して、紫の髪に白衣を着込んだ男に駆け寄っていく。 そして、その男へとにこやかに話しかけ始めた。 「うふふ、初めまして。あたしはキュ―――、ッ」 だが自己紹介の途中で、彼女の言葉は強引に中断される。 傍らに控えていたミス・ロングビルが『ブレイド』を使い、その魔力の刃をキュルケの首に突きつけたのだ。 「ミ、ミス・ロングビル……?」 「……それ以上軽々しくシュウ様に近付いたら殺すよ、売女」 「ば、ばいた……!?」 いきなり本気の『殺意』を向けられて、キュルケは困惑する。 (ミス・ロングビルって、こんな人だったかしら……) キュルケの知っているミス・ロングビルと言えば、『いつも物腰が柔らかくて知的』というイメージだったのだが、同一人物のはずの目の前の女性からはそんな空気は微塵も感じない。 まるで裏家業の人間である。 「落ち着きなさい、ミス・ロングビル。彼女は初対面の私に挨拶に来ただけです。杖を収めなさい」 「ですが、シュウ様……」 「……私は『杖を収めなさい』と言いましたよ?」 「は、はい……」 しずしずと下がるミス・ロングビル。 そんな光景を見て、キュルケは唖然としていた。 「申し訳ありません。……ミス・キュルケですね? 私の名はシュウ・シラカワと言います。貴女の話はユーゼス・ゴッツォやミスタ・ギーシュから伺っていますよ。何でも優秀な火のメイジであるとか」 「はあ……。……あの、失礼ですがミス・ロングビルとはどのようなご関係で……?」 何だかよく分からないが、ミス・ロングビルとただならぬ関係にあるのは明白である。 好奇心旺盛なキュルケとしては、ぜひそこを聞いておきたかった。 「彼女との関係、ですか……。そうですね、『惚れ薬を飲んだ人間』と『その効果を味わっている人間』、というところでしょうか?」 「惚れ薬ぃ?」 なるほど、そんなものを飲んでしまえば普段のミス・ロングビルとは違ってしまって当然かも知れない。 だが、惚れ薬とは……? 「詳しくは、そこにいるミス・モンモランシーに聞いてください」 ははぁん、とキュルケはおおよその事情を理解した。 どうせ浮気性のギーシュに怒ったモンモランシーが禁制の惚れ薬を作って、それを誤ってミス・ロングビルが飲んで、その場にはこのシュウと言う男がいて……とかいう所だろう。 それをモンモランシーに詰め寄りながら確認してみると、予想通りに肯定した。 しかもミス・ロングビルだけではなくルイズまでその惚れ薬を飲んでしまい、その惚れた対象はユーゼスだと言う。道理で自分からは動かなさそうなユーゼスや、ルイズの姉がここにいるわけだ。 「…………つまり、そもそもの発端はあなたたちじゃないの」 「いや、まあ、うん、その……そ、そう言えないコトもなくはない可能性があるかも……」 「……仕方ないじゃない。ギーシュったら、浮気ばっかりするんだから……」 バツが悪そうなギーシュと、ぶつくさ文句を言うモンモランシー。そんな二人……特にモンモランシーを見て、キュルケは呟く。 「まったく……自分の魅力に自信がない女って、最悪ね。おかげでこっちは死にかけるし」 はあ、と溜息をついて、ガックリとうなだれるモンモランシーを見るキュルケだった。 一方、こちらはユーゼスとエレオノールとルイズ、そしてタバサである。 「つまり、ミス・タバサの『実家』が領民から請け負った仕事をミス・タバサ自身が引き受け、ミス・ツェルプストーはそれに付き合っただけだ、と」 「そう。水の精霊の仕業で湖の水かさが増えて、被害が出ている」 「成程」 湖の水かさが増える、というのは確かに一大事だ。 そこに住んでいる領民はともかく、周辺の自然環境が著しく破壊されてしまう。 「……水の精霊にその辺りも尋ねてみるか。言葉は通じるのだから、やりようはあるかも知れん」 「………」 こくり、と頷くタバサ。 タバサとしても、戦わずに済むのならそれに越したことはない。 「では、早速ミス・モンモランシに……」 「ちょっと待って、ユーゼス」 もう一度水の精霊を呼んでもらおうとしたら、エレオノールに声をかけられた。 ユーゼスは何故このタイミングで声をかけられるのかが分からず、エレオノールの方を見る。 「何だ、ミス・ヴァリエール?」 「……一つだけ聞かせてちょうだい。あなたがさっきその二人にやった『診療』と『治療』って、どんな人間にも効果があるの? 例えば……『不治の病に冒された人間』とか」 ピクリ、とエレオノールの言葉を聞いたタバサの表情が、微妙に動いた。 しかしユーゼスとエレオノールはそんな些細な動きには気付かず、会話を続ける。 「……それは今、答えなくてはならないことか?」 「疑問は早い内に解決しておきたいのよ」 「……………」 内心で盛大な溜息を吐くユーゼス。 やはり因果律を操作したのは失敗だったかも知れない、とまた後悔の念がぶり返してくる。 一度でもこういう『奇跡』を見せてしまうと、人間というものは取り憑かれたように『再びの奇跡』を求め、渇望してくるのである。 他でもない自分がそうだった。 (ここは一度、釘を刺しておくか) そう考えた後で、ユーゼスは口を開く。 「……やってみなければ分からない、としか言えないな。私の手には負えない可能性も十分にある」 「じゃ、じゃあ、取りあえず……」 「だが」 一瞬だけ期待の色を顔に浮かべたエレオノールだったが、ユーゼスはすぐにその期待を手折りにかかった。 「仮にそれが出来るとして。私がそれを行う理由は無い」 「なっ……!?」 エレオノールは絶句する。 予想通りの反応を見せた金髪の女性に対して、ユーゼスは更に言葉を放つ。 「……お前は何か勘違いをしていないか? 私は『善意の奉仕者』でも『救世主』でも『救いの神』でもない。一度簡単な治療を行った程度で、過度な期待を抱いて縋り付いて来られても迷惑だ」 「べ、別に縋り付いてなんか……!」 「ならば私を頼ろうとするな。……それにミス・タバサとミス・ツェルプストーに行った『治療』は、ごく初歩的なものだ。あれが通用しない『患者』など、掃いて捨てるほどいるぞ」 嘘は言っていない。 死にかけた人間を治療したり、死人を生き返らせることなどは、因果律操作の初歩である。やろうと思えば、本当に『一つの世界を完全に支配する』ことも可能なのだ。やる気は毛頭ないが。 それに『脳の治癒』や『臓器の治癒』が、このハルケギニアに存在する全ての『患者』に通用するわけがない。 (詭弁もいいところだな……) 軽い自己嫌悪に苛まれるが、この場合は仕方がない。 闇雲に大きな力を使えば、必ずどこかに歪みが生じてしまう。 その歪みは人を狂わせ、運命を狂わせ……やがては世界を滅ぼしかねない、大きなうねりとなる。 うねりを起こした張本人である自分が言えたことではないが、しかしここはどうしても譲れない一線であった。 光の巨人―――宇宙の調停者、そして守護神たる存在。 今更その存在意義を否定はしないが、あれが自分に与えた影響を考えると、ここはエレオノールを突き放しておくのが最善の方法に思えるのだ。 「……そう、期待した私が馬鹿だったわ」 落胆と苛立ちを交えながら、エレオノールが呟く。 タバサもまたガッカリした空気を出していたが、ユーゼスはそれに気付かなかった。 ……『諦めてくれたか』と安心する反面、ユーゼスはそんなエレオノールの様子を見て妙な心苦しさを覚えていた。 (良心が痛んでいるのか?) 自分が行った選択は、『ほぼ100%救えるのに、救わない』ということだ。 それが間違っているとは思わない。 しかし、目の前のエレオノールに悪印象を持たれるのは……どういうわけか、避けたいと感じている。 (?) 自分で自分の精神状態が、よく分からない。 ともあれ、このままエレオノールを放っておくのはいけない気がしたので、ユーゼスは付け足すように喋る。 「……その『患者』とやらの症状の見立て程度ならば、別に構わんがな。『治療するかしないか』と『病状の把握』は別問題だ。……案外、そこから治療方法が見つかるかも知れんぞ?」 「……………」 じぃっとユーゼスを見るエレオノール。 そのまましばらく沈黙が続いたが、やがてエレオノールは不機嫌そうなままでユーゼスに告げた。 「それじゃあ、近い内に『患者』の詳しい情報を送るわ。それを見て病状を判断してちょうだい」 「分かった」 エレオノールの声が少し冷たい。いや、元々声が冷たい感じの女性ではあったのだが、今はそれに輪をかけて冷たくなっている。ギーシュあたりなら平謝りしそうなほどに。 先ほどのユーゼスの『妥協案』で取りあえずある程度は機嫌を直してくれたようだが、それでも『普通』な状態には遠いようだった。 (むう) こういう時にどうすれば良いのか、人付き合いの経験が極端に少ないユーゼスには判断がつかない。 ただ、それでも言っておかなければならない言葉は、何となく浮かんで来ていた。 なので、その言葉を告げる。 「……済まないな、ミス・ヴァリエール」 一言、詫びた。 結果のみを言うと、それだけである。 だがそれを聞いたエレオノールはしばらく考え込むようにして立ち尽くし、再びユーゼスをじぃっと見つめて、 「…………はぁ」 大きく息を吐き、諦めたように言い始める。 「いいわよ、別に。残念と言えば残念だけど、元々そんなに大きな期待もしてなかったし。……ただ、『病状の把握』とやらはキッチリとやってもらいますからね」 「それは約束しよう」 そんなやり取りをするユーゼスとエレオノール。 傍から見れば、何ということのない会話でしかない。 だがユーゼスが僅かながらも『感情を込めて』語り、しかも『謝る』ということは非常に珍しいことであったし、エレオノールにしてもユーゼスからそのような(マイナスの方向ではない)感情を向けられるのは……まあ、悪い気はしなかった。 「では、水の精霊との再交渉をミス・モンモランシに頼むか」 「そうね。……これでようやくルイズが元に戻る目処が立ってきたわ」 いつもの調子に戻りつつあったエレオノールに、ユーゼスは本人も意識しないまま安堵する。 (……しかし、『機嫌を元に戻す』ということは難しいな……) たまたま自分の謝罪が上手く行ったから良かったものの、これが通用しなかったら完全にお手上げだった。 (ミス・ツェルプストーかミスタ・グラモンにでも、その辺りの秘結を聞いておこうか……) 自分の苦手分野の一つである『人付き合い』の巧者である二人の姿が頭をよぎったので、水の精霊との再交渉が終わったら早速質問してみよう、と思い立つ。 あの二人であれば、おそらく自分には思いも付かないアイディアを提供してくれることだろう。それを採用するかどうかは別として。 まあ、いずれにせよ、全ては水の精霊との再交渉を済ませてからだ。 エレオノールとばかり話していたので非常に不機嫌な様子のルイズをあしらいつつ、ユーゼスはモンモランシーの元へと歩くのだった。 前ページ次ページラスボスだった使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8449.html
前ページ次ページラスボスだった使い魔 「……………」 ユーゼスが空間転移した先で見つけたのは、道の真ん中で横たわって意識を失っているカトレアだった。 アインストの姿はない。 ここに現れた直後にどこか別の場所へと向かったのかとも思ったが、だったら最初からその『別の場所』に転移すればいいはずだ。 つまり、アインストの目的は少なくともこの地点にあり、更にここで気絶しているカトレアに何かをしたということになる。 「ふむ……」 カトレアの身体を腰から持ち上げ、近くにある木陰に寝かせる。 見たところ外傷どころか、かすり傷の一つも負っていない。 見ようによっては『ただ寝ているだけ』とも取れるだろう。 だが。 「……そんなわけがないな」 アインストの転移反応があったその場所に、カトレアが気絶して倒れていた。 これで何もないなどと考える馬鹿はいない。 しかし、見かけの上では何の変化もないのも確かだ。 傷はない。 髪も乱れていない。いや、倒れた拍子にやや乱れたようだが気にするほどではない。 服装も、少々土で汚れた程度。 自分が送ったブレスレットも、左手首に付けられたまま。 『道を歩いている最中に倒れてしまった』と言われたら、そのまま信じてしまいそうだ。 「…………。この際、仕方がないか」 外から見て分からないのなら、中身を調べるしかない。 ユーゼスは脳内にナノチップとして埋め込んであるクロスゲート・パラダイム・システムを起動させる。 更に周囲に誰もいないことを確認し、カトレアを虹色に光る立方体のエネルギーフィールドに包み込んだ。 「……………」 見やすいように、エネルギーフィールドを中のカトレアごと宙に浮かせる。 続いて、不純物が混ざっていると調査結果に不備が出る可能性があるため、カトレアが身にまとっている衣服を一度全て粒子レベルで分解した。 ……さすがに自分が送ったオリハルコニウム製のブレスレットは分解していないが、まあこれは自分の手で取り外せばいいだろう。 「よし」 かくしてカトレアはユーゼス・ゴッツォの手により、身に着けていたものを全て消滅、あるいは取り外されてしまった。 そうして産まれたままの姿となった彼女の身体を、ユーゼスはエネルギーフィールドごとゆっくりと回転させながら、じっくり観察する。 もしかしたら、何らかの異変が服の下に隠されている可能性を考慮したのだ。 「……………」 正面。 右から。 背面。 左から。 上から。 下から。 上下左右前後、あらゆる角度から見ても異常らしい異常はなかった。 少なくとも、外見上は。 「ならば、やはり身体そのものを調べるか……」 ユーゼスはクロスゲート・パラダイム・システムを使い、カトレアの『分析』を開始する。 並行世界のユーゼスは、確かサイキックウェーブか何かを使って強引にエヴァンゲリオンとやらを調べていたようだが、自分はあんな真似はしない。 実行するのに超強力な念を必要とする上に、対象の精神が壊れる危険性が極めて高いのだ。 どうもあの世界のユーゼスは、サンプルに対する扱いが雑と言うか、使い潰したがる傾向がある。 自分だったら、もっとじっくり丁寧にやるのだが。 閑話休題。 今はカトレアの身体のことだ。 システムを使ってカトレアの因果律を調べ、その肉体を構成する因子を――― 「……何?」 ―――因子を解析した結果、何とも奇妙な結果が返ってきた。 「肉体の80%以上が、人間とは異なる細胞で構成されているだと?」 しかも構成している物質……と言うか、細胞はアインストのもの。 だが、カトレアがアインストと同じモノで構成されているとは、ほとんどの人間が気付くまい。 何せこの細胞の『人間への擬装』は、ハルケギニアどころか地球の精密医療検査ですら騙せそうなレベルなのだ。 自分とて、こうしてクロスゲート・パラダイム・システムを使っていなければ分からなかっただろう。 「だが、これは……」 何とも巧みな擬装だ。 各部の筋肉や内臓、皮膚はもちろんのこと、骨および骨髄、血液成分、体細胞、脳細胞、視床下部、卵細胞、代謝機関、五感およびそれに付随する神経、爪や体毛、遺伝子に至るまでが完璧に『健常な人間』を演じ切っている。 ウルトラマンが人間に変身しても、ここまで見事には行かないだろう。 貴重なサンプルとしてぜひとも長い目で観察していきたいところだが、そんな知的好奇心はともかく。 「……妙だな」 カトレアの身体の『人間』への擬装ぶりに感嘆すると同時に、分からない点がいくつか出て来る。 まず一つは、これだけ精巧な擬装や置換が出来るのならば、なぜ最初から『人間』を造らなかったのかという点だ。 いや、あるいは『人間』を造るためのテストケースや、前段階の実験のためにこれを行ったのかも知れないが、だとしてもおかしい。 だったらアインストが頻出しているアルビオンで、何かのドサクサに紛れ込ませるなどしてもっと隠密にやった方が絶対に効率が良いはずだ。 自分がアインストの立場なら、間違いなくそうする。 それでもこんな所にピンポイントで転移してきたということは、実験などではない明確な目的があると見るべきだろう。 しかし。 「何故、カトレアが?」 そうなると、対象がカトレアという点が不可解だ。 干渉を行うのは誰でもよく、転移した先にたまたまカトレアがいたので行った……という線もあるにはあるが、いくら何でもそんな偶然はあり得まい。 しかし偶然でないとして、『アインストがカトレアを狙う理由』というのが分からない。 「……………」 カトレアを狙った理由。 カトレアの肉体をアインストのものに変異させた理由。 カトレアの肉体を使って成し遂げること。 カトレアでなければならない必然性。 カトレアを操って行うこと。 カトレアに出来ること。 カトレアにしか出来ないこと。 「一体、何だと言うのだ……?」 公爵家の次女という立場。―――理由としては弱い。ラ・ヴァリエール家はカトレアが実権を握っているわけではない。 メイジとしての実力。―――確かにカトレアは優秀なメイジではあるが、天才だとか史上最高の実力者であるとかではない。 「?」 分からない。 大体ラ・ヴァリエールの土地から一歩たりとも出たことのないカトレアが影響を与えられる事象など、かなり限定されてくる。 強いて言うなら対人関係で何らかの影響を与えられるかも知れないが、それでもその人数は少ない。 列挙していくと、ラ・ヴァリエール公爵、公爵夫人、エレオノール、ルイズ、屋敷の使用人、領民、彼女が世話をしている動物たち(これは人間ではないが)、あとは自分くらいのものだ。 使用人や領民、動物は除外するとしても、片手の指で足りる人数だ。 そもそも狙いが『対人関係』だとして、手段が回りくど過ぎる。 どうしてそんな外堀を埋めるような真似をするのか。 と、言うか。 「……この行動はアインストらしくない」 最大の疑問はこれである。 どこの並行世界だったかは忘れたが、確かアインストは事故に見せかけて殺した多くの人間の中から、ランダムに一人だけを選んで再生させたことがあったはずだ。 そしてその『再生させた人間』を元にして『人間』のデータを集め、更に『再生させた人間』を執拗に狙ったり、操ったりもした。 それはいい。 アインストにしてみれば誰でも良かったのだろうし、そこに深い考えも無かっただろう。 だが、今回のこれは明らかに『最初からカトレアを狙って』やったとしか思えない。 『今』、『このタイミングで』カトレアに手を出してきた理由こそ不明だが、そこに……何と言うか、人間的な思惑のようなものを感じる。 「と、言うことは……」 考えられる線としては、 何者かがアインストを操り、使役している。 何者かがアインストと取引をして、協力する代わりに見返りを求めている。 何者かがアインストに助言を与えている。 アインストが人間的な思考をするようになった。 このくらいだろうか。 「ふむ」 ユーゼスは一糸まとわぬ姿のカトレアをまじまじと見つめながら、思考に没頭する。 と、その時。 「……ん、んぅん……」 「む」 カトレアの口から、うめき声が漏れてきた。 どうやら意識を取り戻しつつあるようだ。 「……取りあえず元に戻しておくか」 因果律を微調整し、カトレアの衣服を彼女の身体のラインに合わせて再構成。 あとは髪飾りを付けて、左手首にオリハルコニウムのブレスレットを装着。 カトレアを包んでいるエネルギーフィールドをゆっくりと地面に下ろして、解除。 「……………」 そのまま倒れそうになるカトレアの身体を、とさっ、と受け止める。 そして調査前と同じようにして、木陰に寝かせた。 「さて……」 カトレアの身体に起こってしまった異変については把握出来たし、アインストに起こった異変の方も、仮説の段階ではあるが何となく分かってきた。 では、それらを踏まえた上で。 「これからどう対応するかだな」 アインストと繋がっている者、あるいはアインストそのものについては、今の所どうでもいい。 その内にカトレアに対して何らかのアクションがあるだろうから、それを見てからでも対処は遅くあるまい。 ……対応しなければならないのは、カトレア自身の方だ。 「……………」 極端な話。 ユーゼスはカトレアの身体を『元の状態』に戻そうと思えば、今すぐにでも出来る。 少々大掛かりに因果律を操作しなければならないので『自分の世界』に転移した上、超神形態に変身しなければならないだろうが、出来る。 出来てしまう。 しかしそうするとカトレアは『元の状態』、すなわち病弱で余命いくばくもない状態に戻ることになる。 彼女は皮肉にも人間とは違うモノとなったことで、本来そうあるべき『健康な身体』を手に入れたのだ。 それを本人のあずかり知らぬうちとは言え、手放させることは正しいのだろうか。 いや、それ以前に、ハルケギニアに対してそこまで強力な干渉をするのは自分の信念に反するのではないか。 「……………」 因果律を操作して普通の人間にした上で『健常な状態』にする、というのは論外だ。 それをするなら出会った時に既にやっているし、大体そのような『神様気取りの行為』は自分が最も忌み嫌うものの一つである。 誓いと言うほど重くはない。 決心と言うほど強くはない。 ただ、あの時。 あの場で悟り、たどり着いた答えを否定することになってしまう。 ―――「イングラム……お前が言う通り、この世界に超絶的な力は不要だ。何故なら、そんなものがなくても……人々は生きている。そして、世界は存在し続けている……」――― この宇宙に神など不要なのだ、と。 確かに自分は思ったし、口にも出した。 たとえ何が起ころうとも、自分自身のあの言葉だけは否定するわけにはいかない。 そうでなければ、おそらく『このユーゼス・ゴッツォ』はアイデンティティどころか、存在すらも崩壊してしまうだろう。 「…………、ふむ」 自分が死んだ時を思い出したついでに、自分が戦った彼らならどうするか、と考える。 ―――例えば、瀕死の人間がいたとする。 その場にいたのが一条寺 烈―――宇宙刑事ギャバンだった場合、ドルギランの施設なり何なりを使って救命の道を模索するだろう。 ウルトラマンなら、同化でもしてその命を繋ぎとめるに違いない。 イングラム・プリスケンならば……具体的にどうするのかは分からないが、見捨てるような真似はするまい。 だが、それはその瀕死の人間が『彼らに気に入られた場合』の話だ。 伊賀 電やハヤタあたりが良い例だろう。 彼らが助かったのは、『ギャバンやウルトラマンに気に入られた』からである。 おそらくだが彼らが善良な人間ではなかった場合、バッファローダブラーやベムラーに殺されたままになっていた可能性が極めて高い。 ……そもそも、あの連中は『自分が気に入った者』に対してはその身を捨ててでも助けるくせに、『自分が敵と見なした者』に対しては何の躊躇もなく殺しにかかるような奴らなのだ。 元人間で怪獣化したジャミラなど、実際にアッサリ殺していたし。 しかし、ユーゼスは彼らとは違う。 その人間のことを気に入っていようがいまいが、贔屓はしない。 何らかの借りがあれば、それを返すために能力を使うこともやぶさかではないが、理由もなく人を助けたりはしない。 とは言え、カトレアを死なせるとなると…………何と言うか、惜しい気もする。 「……………」 仮面を被っていた頃だったら、『こんなハルケギニア人の女の一人や二人、どうなろうと知ったことではない』と完全に放置するか、そうでなければ人体実験をしてデータの採取、あるいは洗脳でもして手駒に使っていたことだろう。 我ながら甘くなったものである。 まあ、このあたりは今までにカトレアと形成してきた交友関係に基づくものか。 何せ自分はハルケギニアに召喚されるまでマトモな人付き合いなどほとんどしてこなかったのだから、『親しく話せる人間』というものを大事に思っているのかも知れない。 「ん……」 「…………ふむ」 そんな自己分析はともかく、まずは今後のことだ。 クロスゲート・パラダイム・システムを使って……というのは却下としても、しかしハルケギニアの技術ではカトレアを元に戻すことは出来ない。 と言うか、地球の技術だろうがバード星の技術だろうが無理だ。 おそらく並行世界の自分が所属している、ゼ・バルマリィ帝国の技術でも不可能だろう。 ……むしろ、こんな状態になった者を因果律の操作以外で『人間』に戻せる方法があったら、教えて欲しいくらいである。 エレオノールにしたように精神への影響をガードする防壁を作っておくというのも、アインストに侵食(この表現で良いのかどうかはともかくとして)された今のカトレアでは難しい。 超神形態になる必要はないだろうが、やはり『自分の世界』にカトレアを転移させる必要があるからだ。 ユーゼスがギリギリ認める『簡易的な因果律操作』のラインは、ちょうどこのあたりにあった。 そうなると。 「放っておく―――いや、経過観察とするべきだな」 手の打ちようが無いのであれば、打てないなりの行動を取るしかあるまい。 しかし、いくら何でもカトレアに対して馬鹿正直に『お前は健康体になったが人間ではなくなった。おそらく近い内にお前を人間でなくした怪物が接触してくるだろうから気を付けろ』などとは言えない。 いくら自分でも、その程度の分別はある。 同じ理由でエレオノールやルイズに相談も出来ない。 言ったところで信じてくれるかどうかすら疑わしい案件であるし、信じてくれた場合でもそれはそれで大問題だ。 唯一話せそうなのはシュウ・シラカワくらいだが、あの男にあまり借りを作り過ぎるのは良くない気がする。 「……私一人で当たるしかないか」 とは言っても出来ることなど、せいぜいカトレアの監視を強めることくらいだ。 そしてアインストがカトレアに対して接触、あるいは干渉を行ってきた場合には適宜対応……ということにするしかないだろう。 「歯がゆいものだな……」 一度は『全能なる調停者』などというご大層なものを目指していた男が、この程度の手しか打てないとは。 何とも情けない話である。 「…………。いや、今更か」 この件に関して、責任の一端は間違いなく自分にある。 『実行犯』が別にいるとしても、カトレアを普通の―――それこそ出会ったその時点から『正常で健康な人間』にすることが十分に出来ていたと言うのに、その選択肢を今もなお拒否し続けるユーゼス・ゴッツォに。 情けないと言うのなら、力を持ちながらも宙ぶらりんの状態にある時点で十分に情けない。 いや、そもそも自分のこの力は人であるには大き過ぎて、神であるには小さ過ぎる。 中途半端とはまさにこのことだ。 それこそ、あらゆる意味で。 だが、情けなくて中途半端でも、そんな人間なりに取れる責任はあるはず。 ならば。 たとえ、その存在を惜しいと思っていようとも。 「……いざとなれば、お前の始末は私が付けよう、カトレア」 浅い眠りの中にいる桃髪の美女に対し、ユーゼスは優しげとさえ言える口調でそう呟くのだった。 ド・ヴィヌイーユ独立大隊、アルビオン軍、そしてアインストの大群の三つ巴の戦いは熾烈を極めていた。 銃声は引っ切り無しに鳴り響き続け、騎兵やメイジは半ば理性を無くしたかのように敵に攻撃を仕掛け、異形の怪物は唸りを上げて人間を屠っていく。 「ぐっ……! くそっ!!」 ギーシュはそんな戦場の真っ只中で、必死にゴーレムを操り、呪文を唱える。 自分の護衛のために出した4体のワルキューレは既に1体が全壊。 残る3体も見る影も無くボロボロで、片腕を失ったり頭が無かったりと酷い有様だった。 「はぁ、はぁ……!」 敵の脚を『アース・ハンド』で絡め取って転ばせて、後ろから迫ってきたアインストから逃げ出し、その逃げ出した先にいるメイジに向かってワルキューレを特攻させ、自分は即座に伏せて、中に仕込んだ火薬を使ってワルキューレを自爆させる。 「っ!」 すぐさま立ち上がって『ブレイド』を詠唱、薔薇の造花を基点として少し長めの魔力の刃を形成し、それを無我夢中で横なぎに振るうと、騎手を失って暴走していた馬の首が飛んだ。 ぶしゅ、と真っ赤な血が切断面から噴き出す。 「……っ、っ」 ピシャリと馬の返り血を浴びて怯むギーシュ。 だがその事実を飲み込む暇もなく、後方、自軍の中から巨大な火の玉が轟音と共に出現し、亜人とツタのアインストを焼き払った。 「だ、大隊長か……?」 これはギーシュもついさっき知ったのだが、我らが大隊長ことド・ヴィヌイーユ氏は『火』のスクウェアメイジなのだそうだ。 まあ、いくらこの大隊が寄せ集めの駄目部隊とは言え、仮にも『大隊長』を任されるほどの人間である。 それが並のメイジであるはずがない。 ギーシュはそれを頼もしいと思いつつ、けれどこの状況では慰めにもならないということもまた思い出し、半ばヤケになってもう1体ワルキューレを作り出した。 「ディスタント・クラッシャー!!」 鎖で胴体と繋がれたワルキューレの両腕が、爆発力を威力に変えて飛んで行く。 その攻撃の片方はちょうど『魚』のアインストの頭のあたり(本当に『頭』なのかどうかは不明だが)にある赤い光球にぶち当たり、1体のアインストを沈黙させるに至った。 「よし!」 灰になって崩れていくアインストを見て、決して小さくはない達成感を覚えるギーシュ。 しかし、アインストが消えて開けた彼の視界に飛び込んできたのは、 「……え」 『骨』のアインストの鋭い爪で引き裂かれる、自分の中隊員の姿だった。 「あ、ぁあ……」 ここでのギーシュのミスは、『仲間が傷つく光景』や『仲間の死』というものを必要以上にマトモに受け止めてしまったことにあった。 この場にいたのが仮にユーゼス・ゴッツォであれば、特に感慨もなくまた戦闘に戻っただろう。 シュウ・シラカワの場合でも、多少表情をしかめこそすれ、割り切ることは出来たに違いない。 だが、彼はユーゼスでもシュウでもなく、ギーシュ・ド・グラモンなのである。 だから、戦闘に没頭して心も身体も熱くなっていた先程までの状況から、中途半端に冷めてしまう。 「っ、ひ、ぃ」 そして、地獄を見た。 いや、地獄にいることを確認してしまった。 『ツタ』のアインストが発する熱光線によって蹴散らされる者、『鎧』のアインストの拳によって殴り飛ばされる者、今さっき自分が倒したものと同種の『魚』のアインストの電撃によって焼け焦げる者。 槍で貫かれ、剣で斬られ、弓で射られ、棍棒で砕かれる多くの者たち。 銃弾、砲弾、風の刃、氷の槍、炎の玉、石のゴーレム。 誰かの怒号、聞き覚えのある声の悲鳴、ワケの分からない断末魔、獣の雄たけび、爆音、轟音、肉が潰れるような音、水袋が破裂したような音。 敵も、味方も、怪物も。 この場にいるあらゆる存在が傷付け合い、殺し合っている。 血と殺戮の戦場。 これが地獄でなくて何だ。 「ひぐっ、っ、ぅえ」 こみ上げてくる涙と震えと吐き気を抑えようと、手を強く口に当てるギーシュ。 次の瞬間には逃げ出したい衝動に激しく駆られるが、逃げ場などどこにも無いと気付いて、 「ぁぐ、ぐ」 パニックを通り越し、自失する。 それが致命的な隙となった。 ザシュッ!! 「ぎぃ、あ!!!」 『骨』のアインストが持っている、黄色いツノのような突起物。 頭と肩に数個ずつ付いているそれは、『骨』の身体を離れ、頭が真っ白になっているギーシュに襲い掛かった。 盾代わりにしていた3体のワルキューレは防壁としての役割も果たせずに撃ち破られ、結果、ギーシュは大きな裂傷を負ってしまう。 「が……ぐ、ぁぁぁああああぁぁあああ!!」 傷口から血が噴き出る。 主な被弾箇所は、左の腿、右のわき腹、右肩、左頬。 直撃しなかったのは不幸中の幸いと言える。 だが傷口からドクドクと流れていく自分の血は、ギーシュの心を折るのに十分過ぎた。 「い、痛い……痛いぃ……」 その場に膝から崩れ落ちるギーシュ。 「……ぁ?」 ふと顔を上げれば、自分を傷付けたらしい『骨』のアインストがズンズンとこちらに向かって来ていた。 「うっ……っく、ひぃっ!」 ギーシュは半ば恐慌状態になりつつも無事な左腕で杖を振り、ワルキューレを1体だけ造り上げる。 そしてユーゼスが考案してくれた『無限パンチ』を繰り出し、その伸びる拳はアインストの弱点である赤い光球へと、 『ォォォォォオオオ……!』 「あっ」 届こうかという前に、『骨』のアインストの黄色い爪によって青銅の拳はあっけなく引き裂かれた。 『グゥゥウ…………ウゥウ!!』 「っ、ぃ、く、来るな」 今の一撃に触発されたのか、『骨』は赤い目を光らせてギーシュへ迫るスピードを上げていく。 ワルキューレはもう造れない。 無限パンチを撃ってしまったせいで、造るだけの精神力が残っていない。 武器を『錬金』、駄目だ。どうせ通用しない。 『アース・ハンド』で足止め。……足止め? 止めたところで、またすぐに向かってくるだけだ。 『ブレイド』で戦う。きっと駄目だ。 「あ、ぁぅ、あぁ、ああああああ」 もはや意味を成す言葉すら出てこない。 涙も震えも吐き気もない。 ただ、どんどんとこっちに向かってくる『死』のことだけで頭がいっぱいだ。 「―――――」 ふと、真っ白になってしまった頭の片隅で。 『僕は死ぬんだな』と、どこか冷静に受け止めてしまっている自分がいることに気付いた。 ……気付いたところで、どうなるものでもないが。 「―――――」 やっぱり痛いのかなぁ。 苦しいのかなぁ。 …………死んだあとって、どうなるんだろうなぁ。 死んだらもう、モンモランシーに会えないなぁ。 ああ、困った。 それは大問題だ。 どうしよう。 「―――――」 呆けた頭で、とりとめのないことを考えるギーシュ。 そんな間にも『骨』のアインストは彼に接近し、その大きく黄色い爪を振り上げていく。 次の瞬間、 「―――――」 ダァン、と。 銃声が一つ響いた。 「え」 続いてアインストの致命点である赤い光球に、ビキビキと亀裂が入る。 「……?」 一体何が起こっているのか、ギーシュには理解が出来ない。 と言うより、目の前で起こっていることを受け止める余裕が全くない。 けれど、受け止められなくても『目の前で起こっていること』を見続けることだけは出来た。 「―――――」 明らかに動きが鈍る『骨』のアインスト。 もう一発、どこかから撃ち込まれる弾丸。 『骨』は、その身体をパラパラと灰にしていく。 そして銃声が聞こえてきた方向から何者かが現れ、腰に携えていた短刀を引き抜いて、アインストの赤い光球へと力まかせに振り下ろした。 『ッッッッ!!』 ギーシュの語彙では表現しきれない、叫びのようなモノを上げてアインストが完全に灰になる。 一連の流れを呆然と見ていたギーシュは、自分を助けてくれた人間へとゆっくり視線を動かし、それが誰かを確認する。 「ぐん、そう?」 「ご無事ですかい、中隊長殿」 相変わらず飄々とした様子で話しかけてくるニコラ。 だが彼もこの戦場でかなりの激闘を経てきたのだろう、その外見は有り体に言ってボロボロだった。 一方で助けられたギーシュは、色んな感覚が麻痺しているせいで『危機から救われてホッとした』とか『助けられて嬉しい』とかいう感情すらわいて来ない。 「…………使えたんだな、銃」 と、こんな風に頭に浮かんだことを口に出すだけで精一杯だ。 「そりゃ一応は鉄砲隊ですから」 ニコラはどこか間の抜けた会話に苦笑しつつ、ギーシュの状態を確認する。 まずは目でざっと見て、続いてギーシュの腕をとって軽く動かし……。 「づぅっ!!」 「……………」 痛みに身をよじらせるギーシュの反応と、その出血箇所とを交互に見てニコラは顔をしかめた。 しかしニコラはいつも通りの口調でギーシュに話しかける。 「中隊長殿、傷を治す魔法は使えますかい?」 「……っ、いや、水魔法はあんまり得意じゃない。それに、これまでの戦いで精神力もほとんど空っぽでね、ハハ……いッ、グァッ!!」 ギーシュはカラ元気ながらも笑おうとするが、『笑う』という行為のせいで体のあちこちにある傷が悲鳴をあげる。 ―――もはや笑うことにすら多大な労力を使わねばならない状態のギーシュを見て、彼の副官は大きな溜息を一つ吐いた。 「はぁ……。しょうがない、コイツを使うか」 「ん?」 妙にやるせなさそうな表情を浮かべながら、懐から小ビンを取り出すニコラ。 琥珀色の液体の入ったその小ビンを見て、ギーシュは首を傾げる。 「何だい、それ?」 「酒です」 「は?」 「サウスゴータから逃げ出す時に、ちょいと失敬しましてね。今まで飲み時を逃しちまってましたが……どうです、景気づけに?」 「おいおい……」 こんな時に酒を勧められるとは思わなかったギーシュは、呆れるやら面食らうやらで思わず目をパチクリさせた。 (……いや、『こんな時』だからこそなのかな) 飲まなきゃやってられないと言うわけでもないだろうが、この状況じゃ酒の一つくらい飲みたくなるのも仕方ないかも知れない。 少なくとも、それも悪くないかなと自分は思い始めている。 それに、酒一杯で最後の力が振り絞れるのなら、安いものだ。 「…………。それじゃ、いただくよ」 「どうぞ」 ギーシュはニコラから酒の入った小ビンを受け取り、思い切ってゴクゴクと一気に飲み干した。 「ああ……」 美味い。 何と言うか、沁みる美味さだった。 こんなに酒を美味く感じたのは初めてだ。 ユーゼスは酒の類を全く飲もうとしていなかったし、そもそも酒の味や良さからして分かっていなかったようだが、何てもったいないことだと心から思う。 今度一緒に飲みに行く機会があったら、ちょっと強引にでも勧めてみよう。 いつかも行った『魅惑の妖精』亭で。 飲むのに慣れてないだろうから、最初は軽くて飲みやすいものからがいいだろう。 どんな酔い方をするのか怖いような、楽しみなような。 …………そんな機会は、多分、もうないけど。 それでも。 未来のことを思えると言うのは、良いことに思えた。 「よし」 末期の酒にしては十分だ。 身体が熱いのは酒のせいか、それとも気分が高揚してるせいか。 とにかく心機一転、身体はボロボロで魔法もロクに使えない状態だが、一気にパッと――― 「…………っ、あ、あれ?」 ―――散ってやる、と決意しようとした瞬間。 いきなり強烈な眠気が襲ってきた。 「どう、なって……」 「……すみませんな、中隊長殿」 どんどん希薄になっていく意識の中で、ニコラのそんな声が聞こえる。 それでギーシュは、ニコラが自分にしたことを何となく理解した。 「ぐん……そう、……酒に…………」 言おうとしたセリフを言い終わることはなく、ギーシュの言葉が途切れる。 「…………ぅ、ぅう………………」 ―――意識が闇に落ちきってしまう寸前。 すまなさそうなニコラの顔を見たような気がした。 前ページ次ページラスボスだった使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6879.html
前ページ次ページラスボスだった使い魔 「……お前はいつも、よく分からない理由で私を攻撃するな」 「あなたはいつも、よく分からない言動で私の神経を逆撫でするわね」 軽く睨み合うユーゼスとエレオノールだったが、いつまでもそんなことをしているわけにもいかない。 よって、ユーゼスは早速カトレアに指示を出した。 「ではミス・フォンティーヌ。先程のエレオノールのように、あなたも脱いでください」 「え?」 「あ、やっぱりそうですか」 「ええ?」 いつも通りの態度でけっこう凄いことを言うユーゼスと、それに平然と了承するカトレア。 そんな妹とユーゼスを見て、エレオノールはうろたえる。 ……ちなみに、ユーゼスが土砂に埋まっている間にエレオノールは服を着直している。 「ちょ、ちょっと、どうしてカトレアが脱ぐのよ!?」 「お前に行った触診行為は、そもそもミス・フォンティーヌに同じことを行うための準備のような物だぞ。忘れたか?」 「……まあ、それは分かってるけど……」 ついさっきまでユーゼスが自分に行っていた行為を、カトレアにも行う。 それは、何だか……。 「では、ちょっと向こうを見ててくださいね」 「かしこまりました」 だがエレオノールの内心のわだかまりをよそに、二人は着々と手順を進めていく。 「……………」 そんな二人のやり取り黙って見ているしか出来ないエレオノール。 ……と言うか、この場での彼女の役割は言わば『ユーゼスを連れて来て、自分の身体データを提供する』ことに集約されているようなものだったので、実はもうやることなどない。 しかし、このまま二人を放置して自分だけ退室するのは物凄く危険なような気がしたので、せめて黙って監視を行うことにした。 「んっ……」 ユーゼスの手が、露わになったカトレアの背中を撫でる。 エレオノールは、顔をしかめた。 「……あっ」 ユーゼスの頭がカトレアの背中に近付き、耳がピッタリと張り付く。 エレオノールは、自分の意思を超えてユーゼスを殴ろうとする右手を必死になって抑えた。 「ひゃっ、……やっ……」 ユーゼスはカトレアの両腋に手を差し入れ、更に深く指を差し入れる。 エレオノールは、この馬鹿に対してどんな拷問を行うかを考え始めた。 「……ふむ。それでは幾つか質問させてもらいますが、よろしいですか?」 「ええ」 そして十数分に渡る問診を経て、一通りの診察が終了する。 一連の結果を確認する意味で、カトレアはユーゼスに一つの質問を投げかけた。 「ユーゼスさん。私、姉さまと比べてどうでした?」 「…………激しく誤解を招きそうな言い回しはやめなさい、カトレア」 思わず妹の頬をつねろうとするエレオノールだったが、ルイズにならともかくカトレアにそんなことは出来ないことを思い出して慌てて手を止める。 一方、質問を投げかけられたユーゼスは手を洗いながらも忠実に回答を行う。 「……やはり若干弱いと言いますか、乱れがあります。脈も一定ではありませんでしたし、体温も低目でした」 「ちょっと、ユーゼス!」 これに慌てたのはエレオノールである。 何せこの男の書いたレポートには『長くて5年、短ければ1年で死ぬ』などと書いてあった。 下手をすると『あなたはあと○年○ヶ月で死にます』なんてセリフを平然と言いかねない。 そう思って咎めたのだが、 「どうした? 別に『もうじき死ぬ』と言っているわけでもないのだから、構わんだろう。お前と比べて身体が弱いこと程度なら、ミス・フォンティーヌも承知の上だと思うが」 「そうですよ姉さま、何をそんなに怒ってるんですか?」 「あ……いや、その、えっと。……ユーゼスのことだから、また無遠慮に『身体は永遠に治らない』……とでも、言うかと思ったんだけど……」 エレオノールの言葉を聞いて、ユーゼスは溜息をついた。 「お前はそのような宣告を聞きたいのか? 意外に悪趣味だな」 「そんなワケないじゃないの! ただ、あのレポートが……いえ、あなたって言うことはハッキリ言うタイプでしょう。だから、キッパリ結果だけ告知するんじゃないかって……」 一度セリフを言いよどむが、さすがにレポートの内容を当の本人の前では言うことは出来ない、と思い直して別の角度から『言わない理由』を問い質すエレオノール。 すると。 「……仮に結論が悪いものだとしても、本人の前でそれを言うほど私は思慮の浅い人間ではない」 「む、むう……」 などという答えを返された。 正論である。 「まあ、そう絶望するほど悪い結果ではない、とだけは言っておくがな。それに……」 「それに、何よ?」 「私はミス・フォンティーヌの他にも身体の弱い……いや、病魔に冒されていた人間を一人知っているが、その人間は病の身体ながらも超人的な身体能力を発揮していたぞ」 「あら、どんな方だったのですか?」 興味津々な様子で聞いてくるカトレアに、ユーゼスは口調を切り替えて答えた。 「生身で16メイル前後の鉄のゴーレムのようなものを薙ぎ倒し、手から強力なエネルギー波を放ち、駆け引きにおいて私を出し抜いた……そんな男です」 「まあ、凄い」 「……もうツッコんだりしないわよ」 ユーゼスの口から語られる『知人』のメチャクチャぶりを聞いて、それを初めて耳にしたカトレアは素直に感心し、もう何度目かのエレオノールは半ば呆れる。 もっとも、『この知人』は少々特殊すぎる例ではあるのだが……。 閑話休題。 「ともあれ結論だけを言ってしまえば、ミス・フォンティーヌの身体を治療することは『私個人の力では』不可能だ」 若干含みのある言い方ではあったが、ヴァリエール姉妹はそこに隠された意味には気付かない。 「っ……」 「……………」 エレオノールは苦々しく、カトレアは無表情にその言葉を受け止める。 (……む?) そんな二人を見て、ユーゼスは少々不思議に思った。 エレオノールの反応は分かる。 大抵の人間は、『身内の病気が治らない』と宣告されればあのような表情を浮かべるはずだ。 だが、カトレアのこの反応は何なのだろうか? いかにも認めたくなさそうにしているエレオノールに比べて、何の感情も抱いていないように見える。 「……………」 そんなカトレアに興味を惹かれたユーゼスは、ストレートに問いを放つ。 「ミス・フォンティーヌ」 「何でしょう?」 「……今の私の言葉に、何か思うところはないのですか? どうも……大して気に留めていらっしゃらないようですが」 「?」 きょとんとするカトレアだったが、すぐに気を取り直してユーゼスの問いに答えた。 「ああ、ごめんなさい。もう何回も聞いたような言葉でしたから、飽きちゃってたんです」 「飽きる?」 どういう意味なのだろうか。 分からないのでエレオノールの方に目を向けてみると、何故か彼女は先程よりも心苦しそうに目を伏せている。 ……ますます分からなくなったので視線をカトレアに戻すと、カトレアは微笑みながら自分が言ったセリフの意味を語った。 「私、子供の頃からずっと身体が弱かったんです。それで国中からお医者様をお呼びして、強力な『水』の魔法を何度も試したんですけど……。その度に『多少の水の流れをいじったところで、どうにもならない』って言われてましたから」 「成程」 つまり、もう諦めがついていると言うか、自分の人生に見切りを付けつつあるということか。 それならば確かに、今更『治療は不可能』と言われた程度で思うところなどあるまい。 エレオノールに渡された情報から、カトレアの身体状況については大部分の把握が出来ている。 幼少の頃どころか、生まれた時から身体が弱く。 少しでも魔法を使えば、激しい咳や発作に見舞われ。 それから現在に至るまで、そんな脆弱な身体と付き合い続け。 今この時ですら多くの魔法や薬品を使って、その症状を緩和し続けているはずだ。 ……自分は長く生きられないことなど、とっくの昔に察しているだろう。 だったら、いちいち検査結果に一喜一憂するのも馬鹿馬鹿しい。 (『達観している』と言えば聞こえは良いが……) ある意味では『捨て鉢になっている』とも取れる。 このカトレアという女性は、これからの自分の人生に対して期待というか積極性―――『活力』のようなものを抱いていないのだ。 (……私に似ているかも知れんな) 最初から『活力』を持ち得なかった者と、持っていた『活力』をほとんど全て使い果たしてしまった者。 そこに至るまでの経緯は異なるが、どこか今の自分のスタンスとどこか共通している……と、ユーゼスはそんなことを思う。 話題の方向性から微妙に場の雰囲気が沈みかけていたが、そこで不意にカトレアがユーゼスに話しかけてくる。 「ユーゼスさん、ちょっとよろしいかしら?」 「……どうかしましたか、ミス・フォンティーヌ?」 問われたから普通に応じたつもりだったのだが、カトレアはやや不満げな様子でじぃっとユーゼスを見た。 「やっぱり。どうしてなんですか?」 「?」 断片的に疑問をぶつけられるので、ユーゼスには何のことやら理解が出来ない。 「……何なのです?」 「それです、それ。……どうしてエレオノール姉さまとルイズには敬語を使ってないのに、私にだけ敬語を使ってるんです? それと、姉さまは名前で呼んでるのに私は『ミス・フォンティーヌ』なんて名字で呼ぶなんて、他人行儀だと思います」 「「は?」」 どうして、と言われても。 「……最初に会った時の会話で敬語を使っていなかったので、以降も流れ……と言うか成り行きで使わないことにしたのですが。今更敬語を使うことにも違和感を感じますし」 「な、名前で呼ぶことは……ま、まあ、それこそ成り行きって言うか、最初は私も名字で呼ばれてたんだけど、一度名前で呼ばれてからは、そっちの方がしっくり来るって言うか……」 ユーゼスとエレオノールは、それぞれ『敬語を使わない理由』と『名前で呼ばれる理由』を語る。 しかしカトレアはそれに納得しないようで、さらに問いを重ねた。 「じゃあ、ユーゼスさんが私の他に敬語を使ってる人と、エレオノール姉さまの他に名前で呼んでる人って誰ですか?」 「む……」 言われてみれば、自分が敬語を使って会話をしている人間はかなり少ない。 ギーシュやキュルケ、タバサやモンモランシーなどの魔法学院の生徒には敬語など全く使っていないし、オールド・オスマンやシュヴルーズなどの教師についても同様だ。 敬語を使った人間となると、数えるほどしかいない。 『名前で呼ぶ人間』に至っては、もうエレオノールしか存在しないくらいである。 「……ワルド子爵に初めて会った時からしばらくと、アンリエッタ女王陛下には敬語を使いましたか。後はこちらの公爵様と、公爵夫人には使うつもりでいますが。 名前で呼ぶことに関しては……今の所はエレオノールだけですね」 それを聞いたカトレアは『うーん』と小さく唸り声を上げて口を尖らせる。 「私、そんなに偉くないんですけど」 「公爵家の次女というだけで、十分すぎるほど偉いと思います」 「それを言うなら、エレオノール姉さまやルイズだってそうです」 「エレオノールと御主人様に関しては、例外ということでお願いしたいのですが」 ここで、カトレアの目がキラリと光った。ような気がした。 「じゃあ、その『例外』に私も入れてくれません?」 「……何故です?」 「姉や妹とは普通に話してるのに、真ん中の私だけ名字で呼ばれて敬語で話されるって言うのも、何だか仲間はずれって言うか、不公平な気がしますし」 (……それほど敬語を使われたくないのか?) こうも頑なに『敬語を使わないで欲しい』と言われ続けては、思わず承諾しそうになってくる。 まあ、本人がそれで構わないと言うのであれば、別に拒否する理由もないが……。 取りあえずエレオノールに判断を仰いでみることにする。 「エレオノール、構わないか?」 「……したいんなら、すれば?」 何だかよく分からないが、微妙にイライラしているようだった。 ともあれ否定はされていないので、カトレアの要望通りに口調や呼び方を変えるとしよう。 「では、今後は『ミス・カトレア』と」 ユーゼスとしてはかなり砕けた呼び方だったのだが、何故かカトレアは不機嫌度を増してしまう。 「『ミス』は要りませんっ」 ならば、と呼び方を若干変更する。 「『カトレア様』?」 「…………わざと言ってませんか、ユーゼスさん」 ジロリと軽く睨まれてしまったので、『こんな呼び方一つに何の意味があるのだろう』などと思いつつも、ユーゼスは仕方なげに『その呼び方』で呼ぶことにした。 「―――了解した、カトレア。……これでいいか?」 「はい、それでいいです」 これでひとまずの用件は終わったはずなので、ユーゼスはこの姉妹に一言か二言ほど声をかけてから退室しようとする。 だが。 「……………」 まずはこの部屋に連れて来た当人であるエレオノールに声を、と思ってその彼女の方を見たら、どういうわけかエレオノールは元々つり上がっている目を更につり上げて自分を見ていた。 「……むう」 せっかくカトレアの機嫌が直ったというのに、今度はエレオノールの機嫌が悪くなってしまっている。 (何なのだ?) エレオノールの機嫌が悪くなったからと言って自分に不都合があるわけではないが、何となく居心地が悪く感じるので単刀直入に質問してみる。 「何をそんなに苛立っているのだ?」 「別にっ。……ただ、あなたって頼まれたらすぐに誰かを呼び捨てで呼んだりするんだなって思っただけよ」 「?」 『名前を呼び捨てで呼んでくれ』と言われて、実際にそう呼んだことの何がいけないと言うのだろう。 (……いつもの『貴族に対する敬意』というやつか) しかし、本人からそう頼まれたのだから問題はないではないか。 それに第一。 「断わる理由が無いだろう」 「ああ、そう! だったらあなた、断る理由さえ見当たらなきゃ何だってするの!? どうなのよ!!?」 「は?」 うぅ~~、とエレオノールに睨まれる。 ……自分はただ正直に思うところを話しただけなのに、何故睨まれなければならないのか。 と言うか、何故こんな理不尽な理由で怒られているのだろう。 ともあれ、投げかけられた問いには答えておく。 「程度による」 「じゃあ、『死ね』って言われたら死ぬの!?」 「……死ぬわけがないだろう。子供か、お前は」 「なら、『お使いに行け』って言われたら行くの!?」 「内容次第だが、別にその程度なら構わん」 「だったら、『誰かを殺してきなさい』って命令されれば殺すの!?」 「必然性があって、なおかつ私が納得出来ればそうする」 「それなら、『この城にいる間は毎朝私の部屋に来て、私を起こしなさい』って頼まれたら起こすの!?」 「……起こして欲しいのか?」 「えっ?」 ハッとして口をつぐむエレオノール。 そして慌てて今の失言についての弁明を始めた。 「あ、あの……その、別に今のは、物の例えって言うか、つい勢いで言っちゃったって言うか、何て言うか、その……」 「御主人様からも起こすように言われているし、私としては構わんが」 「あら、そうなんですか?」 何気なくユーゼスが言った言葉に、すかさずカトレアが反応する。 「『私に起こされることに慣れすぎて、他の人間に起こされると上手く目が覚めない』と言われてな。まあ、魔法学院では日常的に行っていたことでもあるし、それこそ断る理由も無い」 「まあまあ、ルイズがそんなことを……」 うふふ、と笑うカトレア。 ……ユーゼスにはそれがどのような意味合いの笑いなのかは分からなかったが、深く追求すると危険な気がするので触れないでおくことにした。 そしてカトレアは、ユーゼスがつい先ほど放った言葉に乗り始める。 「じゃあせっかくだから、私もお願いしてみようかしら」 「ちょ、ちょっと、カトレア! 何を馬鹿なことを言ってるのよ!!?」 当然、エレオノールはそれに猛反対した。 「あら姉さま。だってユーゼスさんは『断わる理由がない』っておっしゃったじゃありませんか」 「いくら双方の合意が得られたからって、して良いことと悪いことってものがあるでしょう! そ、そんな、嫁入り前の貴族の女が、眠ってる最中に部屋の中に男性が入ることを了承するなんて……はしたない!!」 「別に夜這いのお誘いをするってわけでもないんですし、いいじゃありませんか」 「よば……!?」 顔を引きつらせつつ紅潮させる姉と、ニコニコと顔色を変えずにそれに対応する妹。 中々に対照的な図式である。 「というわけでユーゼスさん。ルイズのついでで構いませんから、朝に私も起こしてくださいね」 「分かった」 カトレアの申し出をアッサリと承知するユーゼスだったが、そうはさせじとエレオノールが割り込んできた。 「何が『というわけ』なのよ!? 私の意見を聞きなさいよ!! って言うかユーゼス、あなたもすんなり聞き入れないで!!」 しかしカトレアはマイペースを崩さずに、やんわりと姉に問う。 「それならエレオノール姉さま、いくつか質問させていただきます」 「な、何?」 「こちらのユーゼスさんは、眠っている女性に乱暴をするような方なのですか?」 「む……そんなわけがないでしょう。私とユーゼスはそれほど付き合いが長いってわけじゃないけど、どういう人間かくらいは知ってるつもりよ」 その回答を聞いて、カトレアはにっこりと笑みを浮かべる。 「だったら問題はありませんわね」 「うぐ……。で、でも、ルイズに対しては主人と使い魔の関係だから百歩譲って構わないとしても、平民の男を部屋に入れるのは……」 「その理屈で言えば、このお城では男の人が働けないことになってしまいますけど?」 「ぬ、ぬぅぅう……」 小さく唸り、これ以上の追及の手が伸ばせなくなってしまうエレオノール。 と、ここで一応は話の中心であるはずのユーゼスが、ふと疑問に思っていることを口に出した。 「……今の話を総合するに、御主人様とカトレアは起こすとしても、エレオノールを起こす必要は無いのか?」 「え!?」 「あら、まあ。言われてみればそうですわね」 エレオノールはうろたえ、カトレアは相変わらず笑みを崩さずにユーゼスの言葉を反芻する。 「待って! どうしてそうなるのよ!!?」 「……? 御主人様は例外としても、貴族の女性の部屋に私のような平民の男が上がり込むのは駄目なのだろう? しかしカトレアはそれを承知していて、対するお前は反対の姿勢を崩さない。ならば、お前は『私がお前を起こすことに反対している』ということになるではないか」 「え……、……あ、ああ、まあ、うん。そう……なるわね」 見る見る内にトーンダウンするエレオノール。 そんな彼女をよそにユーゼスはカトレアから起床時間についての要望を聞き、それに頷いている。 更にカトレアは『もうこの話はお仕舞い』とばかりに手をポンと叩いて、ほがらかにユーゼスに話しかけた。 「ユーゼスさん。昨日拾ったつぐみを手当てしたんですけど、少し見てくれません?」 「……良いだろう」 そして二人は連れ立って少し離れた場所にある鳥カゴまで歩いていき、包帯の巻き方やエサの種類や放すタイミングについて話を始める。 「…………ぅう」 エレオノールはもはやほぼ放置されつつあったが、顔を伏せて小声でブツブツと何やら呟き始める。 「だ、だって、仕方ないじゃない……。貴族としてって言うか、女性として正しいのは私の方のはずなのに、何でことごとく言い負かされなきゃ……。……そもそもユーゼスだって……」 彼女は一分か二分ほどそうしていたが、やがて意を決したように顔を上げると、キッと強い視線をカトレアとユーゼスに向けて、叫ぶように名前を呼んだ。 「っ、ユーゼス!!」 「どうした、エレオノール?」 いきなり大声で呼び付けられれば普通は顔をしかめるなりしそうなものだが、ヴァリエール家の長女と三女に限って言えばこの程度のことは日常茶飯事なのでユーゼスも普通に応対する。 「わ……、私も、ルイズやカトレアと同じように、朝に……へ、部屋に来て、起こしなさいっ!!」 「駄目なのではなかったのか?」 微妙に震えながら命令口調でそう言うエレオノールに対し、ユーゼスはあくまで冷静だ。 だがエレオノールも一度言い出した以上は引っ込みがつかないようで、やや強引にではあるが約束を取り付けようとする。 「いいからっ、あなたは黙って私を朝に起こせばいいの!! これは命令よ!! 分かった!!?」 「……結局何なのだ、お前は」 今日はいつもに輪をかけてワケが分からないな……などと思いつつ、それこそ断る理由もないのでユーゼスはそれを承知する。 まあ一人起こすのも三人起こすのも労力としては大して変わらないし、問題はあるまい。 と、ユーゼスが起こす順番について軽く思考を巡らせ始めると、 「――――もう、…………だったのに、これじゃ…………」 小さな……本当に小さな、しかし悔しさを含んだ呟きが聞こえたような気がした。 「む?」 疑問に思ってその呟きが聞こえた方向を見てみても、そこにはカトレアがニコニコと微笑んでいるだけだ。 「あら、どうしましたユーゼスさん?」 「……いや、何でもない」 気のせいか、と考え直して思考を元に戻す。 ……何はともあれ、このヴァリエールの城に滞在している間は、ユーゼスの仕事が二つばかり増えることになったのであった。 前ページ次ページラスボスだった使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6941.html
前ページ次ページラスボスだった使い魔 そんなユーゼス・ゴッツォと三姉妹の微妙なやり取りはさて置き、日当たりの良いバルコニーにてラ・ヴァリエール家の面々が勢ぞろいした朝食が始まった。 「……………」 使用人たちと並んでバルコニーの隅に立つユーゼスは、そんな朝食風景を感情のこもらない目で見る。 今日もまた無言の食卓が展開されるのか、などと思っていると……。 「まったく、あの鳥の骨め!」 ラ・ヴァリエール公爵は、かなり不機嫌な様子でそんなことを口走った。 (確かこの国の首相……いや、宰相がそのような呼ばれ方をしていたか) 本を買いにトリスタニアを歩いていた時に、道を行く人々からそのような単語を耳にした覚えがある。 トリステインの王家には、美貌はあっても杖はない。杖を握るは枢機卿。灰色帽子の鳥の骨―――という小唄があったような、無かったような。 まあ、アレが女王ではそのような小唄の一つも流行るのも必然かも知れないが。 「どうかなさいましたか?」 「このワシをわざわざトリスタニアに呼びつけて、何を言うかと思えば『一個軍団編成されたし』だと!? ふざけおって!!」 「承諾なさったのですか?」 「するわけなかろう!!」 さらりと話を促す公爵夫人に呼応する形で、不機嫌の理由を語るラ・ヴァリエール公爵。 語気が荒いことからして、相当腹に据えかねているようだ。 「既にワシは軍務を退いたのだ! ワシに代わって兵を率いる世継ぎも家にはおらぬ。何よりワシはこの戦に反対だ!!」 「そうでしたね。……でも、よいのですか? 祖国は今、『一丸となって仇敵を滅すべし』との枢機卿のおふれが出たばかりじゃございませんか。『ラ・ヴァリエールに逆心あり』などと噂されては、社交もしにくくなりますわ」 熱くなる公爵とは逆に、夫人は涼しい顔をしている。 「あのような鳥の骨を『枢機卿』などと呼んではいかん。骨は『骨』で十分だ。……まったく、お若い陛下をたらし込みおって」 ゴフッ! と口の中に入れていたパンを噴き出しかけるルイズ。 そんな末妹をエレオノールが睨み付けようとするが、 「それに『娘がアカデミーで妙な研究をしているようだが』などと、言いがかりもはなはだしい!!」 続いての父の言葉を聞いて、彼女もまたゲホッ! と飲んでいたスープを噴き出しかけた。 ゲホゲホガホガホと咳き込む長女と三女に気付いているのかいないのか、公爵と夫人は話を続ける。 「おお恐い。宮廷のスズメたちに聞かれたら、ただじゃ済みませんわよ」 「ふん、是非とも聞かせてやりたいものだ」 そして咳き込みからいち早く回復したエレオノールが、先程の父の発言の意図を問い質した。 「と、父さま。『アカデミーで妙な研究』とは、どういうことなのでしょうか?」 「何でも陛下からそのようなお話があったらしくてな。『独自に怪しげな魔法の使い方を開発し始めた』などと言っていたが……エレオノール、そんなことはないだろう?」 「…………もちろんですわ。……まあ、趣味の範囲で小さな研究は行っていますが……」 冷や汗を一筋流しながら、父にそう答えるエレオノール。 『独自に怪しげな魔法の使い方を開発し始めた』のは実際にはユーゼスなのだが、しかしその使い方について添削したり意見を言ったりしているのは間違いなく自分なので、どうにも歯切れが悪い。 (あくまで『個人的な研究』と言い張るのも手だが、『公爵家の長女』と『アカデミーの主席研究員』という立場上、そういうわけにもいかないか……) こういう時に社会的地位は足枷になるな、などと思うユーゼス。 特に『魔法』はハルケギニアの貴族社会において根幹とも言える位置付けにあるため、その扱いも微妙になるのだろう。 (……もっとも、今の段階ではそれほど危険視もされていないようだが) 本当に問題となっているのならば、ラ・ヴァリエール家なりアカデミーなりに強制査察が入ると思われるので、あくまで『このような噂があるが、本当か』というレベルの話のようである。 (…………今後の研究は、より秘密裏に行った方が無難か) なお、『研究をやめる』という選択肢はユーゼスには存在していない。 話が一段落したところで、今度はルイズがかしこまった様子で公爵に話しかけた。 「……父さま。伺いたいことがございます」 まっすぐに向けられる娘の目に何か感じ入る所があったのか、公爵もまたルイズに正面から向き合おうとする。 「いいとも。……だがその前に、久し振りに会った父親に接吻してはくれんかね。ルイズ」 ルイズは静かに立ち上がると小走りに父のそばに寄り、その頬に軽く口付けをする。そして席に戻ると改めて質問を投げかけた。 「どうして父さまは戦に反対なさるのですか?」 「この戦は間違った戦だからだ」 端的に答える父に対して、ルイズは更に問いを重ねる。 「先に戦争を仕掛けてきたのはアルビオンのはずです。それを迎え撃つのが『間違っている』と?」 「……こちらから攻めることは『迎え撃つ』とは言わんのだよ」 ヴァリエール公爵は、先程とはうって変わって落ち着いた口調でルイズに持論を語った。 「いいか? 『攻める』ということは、圧倒的な兵力があって初めて成功するものだ。敵軍は五万。対する我が軍はゲルマニアと合わせて六万ほど」 「我が軍の方が一万も多いじゃありませんか」 「たかが二割程度の兵力差など、簡単にひっくり返る。それに、攻める側は守る側に比べて三倍の数があってこそ確実に勝利が出来るのだ。拠点を得て、空を制してなお、この数では苦しい戦いになるだろう」 「……………」 公爵の話を、ルイズは黙って聞いている。 「我々は包囲をすべきなのだ。空からあの忌々しい大陸を封鎖して、奴らが日干しになるのを待てば良い。そうすれば、向こうから和平を言い出してくるわ。 それに、もし攻め込んで行って失敗したら何とする? その可能性は決して低くない」 (……この男、どちらかと言うと保守的な人間のようだな) ラ・ヴァリエール公爵の言を聞いたユーゼスは、彼のことをそう評した。 もっとも、ユーゼスは『保守的だから』という理由で低い評価を付けるようなことはしない。 規模の大小に関わらず組織というものにはある程度、保守的な考えを持つ人間が必要なのである。 特にこのヴァリエール公爵の場合は、先祖代々から現在に至るまで長年に渡って広大な領地を維持し続けてきたためか、その傾向が顕著なのかも知れない。 とは言え、守りの思考ばかりでは発展は望めない。 現にこのトリステインは古い伝統や慣例にこだわりすぎて国力を弱め、戦争をするにしても隣の新興国のゲルマニアと同盟を結ばなければならなかった。 要するに重要なのはバランスなのだが、重要だけにその調整が一番難しい。 攻めの姿勢が強すぎれば、それに比例して外部からのリスクも強まる。 守りの姿勢が強すぎれば、内部の調整だけにしか頭が回らずにそれ以外のことが出来ない。 組織にとって、内憂外患は常に悩みの種なのだ。 (……地球のTDFが良い例だな) あの組織も、自分が地球に赴任した頃はまだ『地球防衛軍』としての色合いが強く、科学特捜隊やウルトラ警備隊に代表される特殊部隊を擁していた。 だが怪獣や異星人、犯罪組織などが地球から姿を消すと、今度は地球圏の自治に力を注ぐことになる。 スペースコロニーの住民による独立運動の鎮圧は『地球圏の秩序維持』という名目で40年間に渡ってTDFに弾圧され、その結果としてTDFに対抗するネオバディムなどのレジスタンス組織が誕生した。 更に、その状況を憂えたTDFのトレーズ・クシュリナーダが色々と画策し、裏からネオバディムを操るユーゼスの思惑と合致したり相反したり……と少々ややこしい事態へと発展していく。 ちなみに事の顛末として、TDFはネオバディムにアッサリと敗北し、トレーズが率いるTDFの特殊部隊OZも巡り巡って反TDF組織であるピースミリオンに吸収合併されるような形になっていた。 もっとも、それもまたトレーズの計画の内だったのだが……。 (……まあ、ハルケギニアでそこまで劇的な革命は起こらないだろうが) 目まぐるしく時代が移り変わっていた地球ならばともかく、六千年もの間ずっと歴史を凝り固まらせてきたハルケギニアにおいて『自発的な』急激な変化は極めて発生しにくい、とユーゼスは読んでいる。 それは社会制度においては無論のこと、技術、文化、風俗、未開の土地の開拓、そして人々の意識や価値、精神など全ての面において共通していることだろう。 ……しかし、だからこそユーゼス・ゴッツォはこの地に価値を見出してもいる。 と、ユーゼスが思考を展開させている間にもヴァリエール公爵の話は続いていく。 「おまけに魔法学院の生徒を仕官として連れて行くなどという馬鹿な準備まで始めているらしいではないか。……まったく、戦場で子供に何が出来る? 戦はな、足りぬからと言って数だけ揃えれば良いという物ではない。『攻める』という行為は、絶対に勝利が出来る自信と確信があって初めて行えるのだ」 ルイズは父の言葉を噛み締めるようにして頷くと、重ねて質問を投げかける。 「では、父さま。仮に……もし仮に『わたしがこの戦に加わる』と言ったら、どうなさいますか?」 「……まさか行くつもりなのかね、ルイズ?」 ピクリとヴァリエール公爵の表情が動き、周辺の空気までもが緊張する。 ユーゼスがふと視線を動かせば、公爵夫人やカトレア、エレオノールまで似たような……いや、エレオノールは他の面々に比べて表情の強張りが若干強いだろうか。 やはり妹が得た力である『虚無』を知っている分、胸の内の動揺も大きいのかも知れない。 「それこそお前が行ってどうする? 魔法の才能もないお前が……」 「そのことをこれから考えるためにも、父さまのお話を伺いたいのです」 ジッと父を見るルイズ。 公爵はそんな娘の様子に少々面食らったようだったが、すぐに気を取り直すと毅然とした態度で話を始める。 「……先程も話したように、あのような勝てる見込みが薄い―――いや、たとえ勝てる可能性がどれだけ高かろうと、戦に娘を行かせるわけにはいかん」 「それは『公爵』としてのお言葉ですか? それとも『わたしの父』としてのお言葉ですか?」 「…………両方だ」 ヴァリエール公爵は娘の質問に答えつつも、両目を見開いて娘の顔を見た。 どうも娘の態度と言うか、自分に対する姿勢に驚いているらしい。 そして少しの間考える素振りを見せた後、神妙な顔でルイズに語りかける。 「ルイズ。私からも質問をして良いかな?」 「何なりと、父さま」 「お前は、得意な系統に目覚めたのかね?」 「!」 「……!」 今度はルイズの両目が見開かれ、そしてエレオノールもまた驚いた様子を見せた。 ルイズは努めて平静な口調で、父に尋ね返す。 「……どうしてそう思われるのです?」 「いや、何。最後にお前と話した時と今とでは、印象が随分と違っていたのでね。心の内に何かの変化が起こったのかと思ったのだが……メイジの心に変化をもたらす物と言えば、まずは系統に目覚めるかクラスが上がるかを考えるものだろう」 「…………そうですか」 それだけ言うと、ルイズは沈黙する。 (さあ、どうする? 御主人様……) ユーゼスは心の中で、ルイズを試すように問いを投げかけた。 主人は一体どう答えるつもりなのか。 まさか馬鹿正直に『自分は伝説の系統だ』などとは言えまい。 かと言って『まだ系統に目覚めていない』というのもあの少女のプライドの高さからして考えにくい。 「四系統のどれだね?」 そうなると、通常の四系統の中から適当な物を選んで父に偽りの報告を行うか……。 「―――今、この場では言う必要性を感じません」 このようにある種の誤魔化しを行うかの、どちらかになるだろう。 「な……」 「……ルイズ……!?」 この娘の言葉に、ラ・ヴァリエール公爵と公爵夫人は非常に驚いた様子を見せた。 どうやら『最後にルイズと話した時』と『今のルイズのセリフ』は、余程かけ離れたものであったらしい。 一方、カトレアは表情を消してそんな妹と両親の会話を眺めているが、それにしても……。 (……精神状態が顔に出やすい女だな) そんなルイズとカトレアの姉であるエレオノールは、三姉妹での最年長者だと言うのに最も落ち着かない素振りを見せている。 困っていると言うか、不安と言うか、オロオロしていると言うか。 大方『ルイズが迂闊な発言でもするのではないかヒヤヒヤしている』という所なのだろうが、もう少し大きく構えていても良さそうなものである。 (まあ、しかし……ああいうことを『可愛げがある』とでも言うのだろうか) イングラム・プリスケンが聞いたらひっくり返りそうなことを内心で呟きつつ、ユーゼスはエレオノールを視界の端に収めながらルイズとラ・ヴァリエール公爵の会話を見続ける。 「……ルイズ。どうして言えないのだね?」 「『言えない』のではなく『言わない』のです、父さま。別に系統を父さまたちに報告しなければいけない義務もないでしょう?」 「ぬ……、しかし、父親として娘が目覚めた系統は……」 「話したところで、わたしの系統が父さまの今後にそれほど影響するとは思えませんが」 「……………」 物は言いようである。 娘の系統が『虚無』で、父の今後に影響しない訳がない。 しかしラ・ヴァリエール公爵は娘の系統が『虚無』であるなどとは全く考えていないだろうし、ルイズもそれは承知している。 その上で『自分の系統を知ることに何の意味があるのか』と言っているのだから、これはもう『意地の悪いやり取り』としか言いようがなかった。 ……なお、エレオノールはそんな妹の言葉を聞いて顔を赤くしたり青くしたりしている。 「それに……系統を言ったから何だと言うのです? わたしが目覚めた系統によって、父さまが参戦の許可を出したり出さなかったりするのですか? 『水』ならば良くて、『火』ならばダメだとか」 「いや、そのようなことはないが……」 「なら、別に言わなくてもよろしいじゃありませんか」 そう言うと、ルイズは席から立ち上がって改めて父に向き直った。 「父さま。今のお話、大変参考になりました。これよりじっくりと参戦するかしないかを考えようかと思います」 「待ちなさい、ルイズ。まだ話は……」 「もし参戦すると決めた場合には父さまに許可をいただきに参りますので、その時はよしなに。……それでは」 「ルイズ!」 父の強い制止を無視し、ルイズは会話を切り上げる。 「ユーゼス、来なさい」 「……了解した」 そして平然とした態度のまま、ルイズは使い魔である銀髪の男を引き連れて、朝食の席から退場して行く。 一方、残された家族たちは、唖然とした表情でルイズが立ち去った後のバルコニーの出口を見つめていた。 「ど……どういうことだ? あんな『必要性を感じない』や『話したところで』などということを言う子じゃなかったはずなのに……まるで別人ではないか!?」 疑問をそのまま口に出すラ・ヴァリエール公爵だったが、その疑問に答える者は誰もいない。 ……正確に言うと、疑問に対する答えを持つ者は一人だけいたのだが、それを公爵に伝えようとする者はいなかった。 そして、その答えを持つ金髪眼鏡の長姉であるが。 (間違いなくユーゼスの影響ね……) よりによってこんな場面で遺憾なく発揮されてしまったルイズの変わりっぷりに頭を抱えていた。 いや、別に妹の人格と言うか、精神面での変化を頭ごなしに否定するつもりはないのだが、いくら何でも時と場合と相手を選んで欲しい。 (……やっぱり、まだまだ子供ってことかしら) そのあたりも含めて一度じっくり話をする必要があるかも知れないわね、などと考えるエレオノール。 しかし、そんな裏事情など知るよしもないラ・ヴァリエール公爵は大いにうろたえていた。 「いくら何でも、系統に目覚めただけであそこまで変わるわけはないし……。そ、育て方を間違ってしまったのだろうか……。いや、まさかワルドの一件のせいで心を閉ざしてしまったのか? それとも魔法学院で何か……」 「……あなた」 夫人の諌める声も、今の公爵には届かない。 「な、なあ、カトレア。ルイズから何か聞いてはいないかね? 『向こうでこんなことがあった』とか、『グレてやる』とか、『父さまのこんな所が嫌い』とか」 「いえ、そのようなことは聞いておりませんが……」 「あなた」 途方に暮れた公爵はルイズと仲の良かったカトレアを頼るが、そのカトレアもルイズと再開したのはつい先日のことなので、そこまで詳しい事情は知らなかった。 「ならば一体、何が原因で……!? ええい、こうなれば魔法学院に間者を送り込んで……いや、今は夏期休暇中だから意味がないか! ではカトレア、お前の方からそれとな~くルイズに聞いて……」 「……………」 と、そんな風に取り乱すラ・ヴァリエール公爵の姿に、とうとう夫人の堪忍袋の緒が切れる。 「あなたっ!!」 「うひゃあぁっ!?」 妻に怒鳴られ、ビクッと震えてのけぞる公爵。 実に情けない光景だった。 「仮にも公爵ともあろう者が何ですか、その有様は!? 娘の言葉に右往左往して……ルイズの言葉ではありませんが、『公爵』としても『父』としても情けないことこの上ありませんよ!!」 「し、しかしなぁ、カリーヌ。あの可愛かったルイズが、あんなことを……」 「ええい、口を開けばブツブツと文句や理屈ばかり……! そのようなことだから、あのようにルイズが付け上がるのではありませんか!!」 「うぅ……」 公爵夫人は自分の剣幕に尻込みする夫を一瞥し、目を閉じて軽く深呼吸を行うと、気を取り直して落ち着いた口調で今後の方針について語り始めた。 「とにかく今の所はルイズも『考え中だ』と言っているのですから、戦に行くか行かないかの議論はひとまず置いておきましょう。その上でルイズが『戦に向かう』と言うのでしたら、それはその時に説得するなり強引に引き止めるなりすれば良いのです」 「う、うむ」 「後はルイズのあの態度ですが……。子供と言うのは本来、良くも悪くも目まぐるしい勢いで変わって行くものでしょう。特にあの年頃は。ならばここは、ひとまず見守るべきかと思いますが」 「いや、だが……」 「『だが』? だが何です?」 「い、いや、何でもありません」 もはや公爵の威厳もへったくれもなかった。 「念のため言っておきますが、『見守る』というのは『ただ見ているだけ』とは違うのですよ。もしルイズが道を踏み外しそうになったのならば、その時は力尽くででも真っ当な道に戻さなければなりません」 「力尽く、かぁ……」 その言葉を妻の口から言われると、何だかシャレにならないような気がする。何せ彼女は、若い頃に……。 「分かりましたね!?」 「は、はい!」 思わず記憶の海に逃げ込みそうになった所で、強い確認の言葉を浴びせられて我に返るラ・ヴァリエール公爵。 ……何はともあれ、ラ・ヴァリエール家としてはルイズに対して『経過を観察しつつ、問題がありそうだったら即座に矯正する』というスタンスとなる。 「…………はぁ。ついこの間までは、『父さま、父さま』って言って駆け寄ってくる可愛い子だったのに…………」 ちなみにヴァリエール公爵は、娘の変化を喜ぶべきなのか悲しむべきなのか、判断に迷っているようだった。 そんな家族の話題の中心のルイズはと言うと。 「うわぁぁああああああ~~ん!! どっ、どうしよう~~~!!?」 自室に戻ってドアを閉めるなり、物凄い勢いで先程の自分の発言を後悔しまくっていた。 「場の勢いとは言え、よ、よりによって父さまに向かってあんなことを……あああ、もしかして謹慎を命じられたりするんじゃ……」 「……そこまで心配する必要もないのではないか?」 アワアワと混乱しかける主人とは反対に、使い魔のユーゼスは平然としたものだった。 「何よ!? 何の根拠があってそんなことを言うの!?」 「仮に謹慎や軟禁状態になったとしても、逃げ出せばいいだけの話だろう。幸いにして今はそのようなことを言われてはいないし、あらかじめ近くにジェットビートルを持って来ていればイザという時の備えにはなる」 「よりによって実家から脱走してどうすんのよ!! って言うか、そんなことしたらもうこの家に帰って来れないじゃない!! 下手すると勘当よ、勘当!! 最悪だとお尋ね者!!」 サラッと凄いことを言うユーゼスに、ルイズはガーッとまくし立てる。 一通り叫び終えた後で数回ばかり深呼吸を行うが、やはり思考の切り替えは上手く行かないようだった。 「……まあ、確かにアンタの言う方法も一つの手ではあるんだけど……うーん、やっぱり父さまや母さまには変な印象を持たれちゃったかも……」 「……………」 ウジウジと悩むルイズだったが、ユーゼスはそんな主人に対して何も言おうとはしない。 「……むぅ~……」 そんな使い魔の態度が気に入らないのか、ルイズはユーゼスのことを恨めしそうにジトーッと睨みつける。 「何だ、御主人様」 「……アンタね、御主人様がこんなにも悩み苦しんでるんだから、優しい言葉の一つでもかけてあげるべきでしょう」 「それで何か情況が好転するのか?」 「…………しないけど」 「ならば必要あるまい」 こういう所が優しくないんだから、などとルイズは思うが、『優しいユーゼス』もそれはそれで違和感を感じると言うか、むしろ気持ちが悪い。 はあ、と溜息を一つだけ吐くと、ルイズは今度こそ思考の切り替えを行う。 「まあ、やってしまったことは仕方がないとしても……」 「ふむ」 取りあえず目先の問題としては『父や母への対応』だが、もっと長い視点で見た場合の問題はそれではない。 アルビオンとの戦に参戦するのか、しないのか。 結構な大問題であるが、近日中にその結論を出さなければいけない。 「それで、これからどうするのだ?」 「それは……これから考えるわよ」 幸いにして、父から判断材料は貰うことが出来た。 後は自分の信念と、立場と、今までの人生における経験(と言っても、それほど多くもないが)を総動員して考え抜くだけだ。 「じゃあ、取りあえず」 「む?」 何かを考えるにしても、いつまでもこんな城の中にいては納得の出来る結論は出るまい。 ということで、ルイズは昨日出来なかったことを今やることにした。 「ユーゼス。ラ・ヴァリエールの領地の案内をしてあげるわ」 「ほう、それはありがたい」 これにはユーゼスも乗り気なようである。 「ついでにビートルの回収もね。……アンタのさっきの話じゃないけど、やっぱりイザって時の備えは必要かも知れないし」 「脱走を前提にするのもどうかと思うが」 「だから、あくまで『イザという時のため』よ!! まったく、アンタが言い出したことだっていうのに……」 言いつつ、外出の準備をするルイズとユーゼス。 そしてルイズはストレスを払拭するかのように張り切って、ユーゼスはそれに追随してラ・ヴァリエールの城から馬で出発した。 ……出発したのだが。 「ぐぉおおっ!!?」 「また落馬!? ……ああもう、実家にいる間には何とかしないと……!!」 久し振りの乗馬に当たってユーゼスはその乗馬テクニックを主人に対し、改めて披露することになるのだった。 前ページ次ページラスボスだった使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7852.html
前ページ次ページラスボスだった使い魔 ユーゼスとエレオノールがそんな会話をしている壁一枚向こう側。 「……………」 朝だと言うのにカーテンを閉め切ってどんよりと暗い部屋の中で、ルイズはベッドの中に潜り込んだまま落ち込んでいた。 『――、―――?』 『――――――、――――――――――』 「…………ぅぅ」 布団を被って耳を塞いでも、ほんのわずかに隣の部屋の声が聞こえてくる。 何を話しているのかまでは聞き取れない……と言うか聞き取りたくもないが、何だか親しげというか、楽しげというか。 難しい言い回しをすれば『喋々喃々(チョウチョウナンナン)』というヤツだ。 「ぅぅううぅぅううぅ…………」 自分の使い魔と長姉がどんな顔で、どんなことを話して、どんなことをしているのかを考えてしまって、色々とグチャグチャになってくる。 中途半端に豊かな自分の想像力が、ここまで鬱陶しくなったのは初めてである。 「……はぁ……」 ここ三日で、ずいぶんと涙を流した。 隣に聞こえないように枕に顔を押し付けながら、叫び声も上げた。 なんかもう頭の中がワケ分かんなくなって、軽く暴れたりもした。 溜息だって、どのくらいついたのか分からない。 もう幸せだって逃げ放題。 そもそも幸せって何かしら。 そんな哲学っぽいことまで考えてしまう体たらくだった。 「って、言うか……」 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは、只今絶賛失恋中なのだ。 傷心なのだ。 心が苦しいのだ。 ブロークンハートなのだ。 そんな自分に対して、隣の部屋のあの二人はせめて話し声を控えめにするとか、もうちょっと配慮してくれたっていいじゃないか。 ……いや、まあ、ユーゼスもエレオノールも自分が失恋したことなんて、気付いてないだろうけれども。 配慮されたらされたで、多分もっと傷付きそうな気はするんだけれども。 「…………これから、どうしよう」 さすがにいつまでもこのまま、というわけにはいかない。 いや、部屋から外に出るのはいい。 授業だって出よう。 この際、戦争しにアルビオンに行けと言われたら行ってもいいくらいの心境だ。 しかし、そうすると必然的に使い魔であるユーゼスも付いて来ることになってしまう。 メイジと使い魔は一心同体。 切っても切り離せない関係。 その厳然たる事実が、ルイズを打ちのめす。 「ユーゼスと、顔……合わせたくない」 別に顔も見たくないとか大嫌いとか、そういうわけではないのだが、とにかく今は顔を合わせたくない。 そりゃあ、いつかはこの心の傷も癒えてユーゼスとまた普通に話せるようになるのかも知れない。 だが、その『いつか』ってどのくらい先だろう。 少なくとも今はキツい。 ……いや、今の時点では一生治らないような気がする。 「…………どうしてこうなっちゃったのかしら」 思い返そうとして、すぐにやめる。 そんなことをしたところで、何の意味もない。 原因が分かって、『あの時ああすれば良かったんじゃないか』と考えて、上手く行ったときのことを空想して、それが何になるというのだろう。 過去には戻れないし、現実も事実も真実も変わりはしない。 ユーゼスの心は、自分に向いてはいないのだから。 「はぁ……」 また溜息をつく。 ……何だかもう、考えるのも面倒になってきた。 パッと気持ちを切り替えることが出来たらいいのだけれど、そんな服を着替えるように気分を変えられたら誰も苦労なんてしない。 いっそのこと何も考えないようになれたら、どんなに楽か。 「……………」 なんてことを考えれば考えるほど、気分はどんどん沈んでくる。 むしろ考えまいとすればするほどアレコレと色々なことを考えてしまう。 特殊な水の秘薬を使えば、もう本当に『何も考えられない』ようになるらしいが、さすがにそれは嫌だ。 そしてふと気付くと、自分の心の大部分がある感情で埋められていることに気付いた。 「…………むなしい」 一体わたしは何をしているんだろう。 いや、何もしていない。 何をすればいいのか分からない。 何かをしようという気すら起きない。 って言うか、何もしたくない。 このままじゃいけない、何かしなくちゃいけないと心のどこかでは分かっているのだが、それを押し潰すくらいの虚しさがそんな焦燥感すらも押し潰していた。 (……いくら虚無の担い手だからって、心の中まで虚無じゃなくてもいいじゃないの) そんな笑い話にもならないようなことを思ったところで、ルイズの部屋に軽いノックの音が響く。 コン、コン 「ん……?」 誰だろう。 まだおぼろげに隣の部屋から会話が聞こえてくることからして、ユーゼスやエレオノールでないことは確かなようだが……。 とにかく、来客には対応するべきだろう。 いくら落ち込んでいるからと言って、無碍に追い返すような真似をしてはいけない。 最低限の『礼』は守るべきなのだ。 ……そう言えばほとんどずっと部屋に閉じこもりっぱなしなので服装が寝巻きのまま、髪はボサボサ、目は泣き腫らしたせいで充血、ついでに部屋は散らかりまくっているが、まあ、色々と整えるのも面倒なのでこのままでいいだろう。 ルイズはどこかズレた思考のままドアまで歩き、その来客を迎えるべくドアを開ける。 そして現れたのは、 「タバサ?」 「……………」 青いショートカットの髪にメガネをかけた、小柄な少女だった。 「ど……どうしたのよ、いきなり」 「落ち込んでるみたいだから」 「……む」 確かに落ち込んではいるけど、そんなわざわざ来てもらうほどじゃないのに。 でも何だか嬉しいような気もする。 ルイズは何だか申し訳ないような、むず痒いような気分になりながら、しかし生来の気質からタバサに対してつっけんどんな態度を取ってしまう。 「……お、落ち込んでるって言うんなら、キュルケだってそうでしょ? あの火メイジにこっぴどくやられて、何だか沈んでるそうじゃないの」 「……………」 キュルケの受けたショックは、ルイズのそれとは全く種類が異なっている。 情熱と破壊こそが『火』の本領。 よくキュルケが語っており、もはや座右の銘と言ってもいいほどの言葉だ。 しかし、あの夜、あの男が繰り出した炎は……『破壊』はともかく『情熱』とは程遠いものだった。 実際に対峙した自分たちだからこそ分かる。 冷酷さ、狂気、憎悪、そして歓喜などがごちゃ混ぜになった凶悪な炎。 少なくとも自分の知る『火』のメイジに、あんな男はいない。 ユーゼスはよくあんなのと真っ正面から戦えたものだ。 「ぅ……」 そこまで考えたところで『ユーゼスが戦った理由』に連想方式で行き当たってしまい、軽くダメージを受けるルイズ。 落ち着きなさい。 思い浮かべてしまったことは仕方ないとして、これ以上考えちゃダメ。 今は……そう、取りあえずキュルケのことよ。 (とにかく……) そんなメンヌヴィルの存在は、『情熱』を信条とするキュルケにとって人生観を根底からひっくり返してしまうほどの衝撃だったのだろう。 自分には想像することしか出来ないが、ダメージの度合で言うなら自分以上かも知れない。 そんな状態なんだから、きっと支えが必要なはず。 ……いや、本音を言えば自分だって支えは欲しいけど。 「わ、わたしは別にどうってことないわ。……ただ、面倒だから閉じこもってただけで、もうそろそろ部屋から出てパーッとトリスタニアにでも出かけようかと思ってたくらいだし。だから、あなたは落ち込んでるキュルケをせいぜい励ますなりしてれば……」 出かけるつもりなんか実は全くないのだが、口から出まかせで強がりを口にするルイズ。 するとタバサがポツリと、しかしどこか力強さを感じさせる口調で呟いた。 「キュルケはもちろん心配だけど、あなたのことも心配」 「タバサ……」 不覚にも胸が熱くなってしまう。 普段は無口で、無表情で、無愛想で、何を考えてるのかサッパリ分からないし、たまにフラッとどこかにいなくなったりもするけれど、けっこう友達思いのいい娘じゃないか。 ルイズがそんな感じにちょっと感動していると、タバサはルイズの横をするりと抜けて部屋の中に入ってきた。 ……意外に押しの強い一面もあるようだ。 「まあ……いいか」 ルイズも観念したのか、タバサを追い返すようなことはせずに椅子を差し出した。 そうしてタバサはその椅子に、対するルイズはベッドに腰掛けて話を始める。 「……それで、何をするのよ?」 「取りあえず、あなたの悩みの聞き役にはなれる」 相変わらずの平坦な口調でそう言うと、眼鏡越しにルイズをじっと見つめるタバサ。 一方、ルイズは多少動揺しつつ言葉を返す。 「……でも、いくら聞いてもらったところで解決する問題じゃ……」 「話すだけでも楽になる、らしい」 「…………そうなの?」 「みんな、色々あるから」 「色々?」 「そう。あなたにも色々あるし、わたしにも色々ある。もちろんキュルケにも、あなたの使い魔にも、あなたのお姉さんにも、みんな。……だから、それを実際に言葉にして吐き出すだけでも少しは意味がある」 何だか、妙に実感のこもった言葉である。 この青髪の少女がそんなに大きな悩みを抱えているようには見えないが、何かあったのだろうか。 あるいは、人生相談や告解でも受け付けていたとか。 (って、そんなわけないか) いくら何でもこんな十代半ばの女の子が人生相談など受け付けているわけがない。 ロマリアや祖国の寺院あたりから神官の位でも貰っていれば話は別だが、しかしタバサが告解を聞くようなタイプには見えないし。 ともあれ、自分の話を聞いてもらいたい気持ちはある。 色々と吐き出したいことは、ある。 「……いいの? 話しても」 「いい。わたしは聞くだけだから」 わざわざそう言うくらいなのだから、本当に『聞くだけ』なのだろう。 でも、何もしてくれなくても……誰かに聞いてもらえるというだけで、取りあえず今よりはマシになるような気がする。 …………ああ、そうか。 悩みや罪を告解する人間って、こんな気持ちなのかも知れない。 「そ、それじゃあ……」 そしてルイズは、ためらいがちにタバサに語った。 ユーゼスのこと。 自分のこと。 エレオノールのこと。 それぞれの関係。 二人に対する色んな不満。 自己嫌悪や自責。 どうしてこうなっちゃったのかしら。 そもそもエレオノール姉さまのどこがいいのよ。 わたしより胸ないじゃないの。 って言うか、わたしの方が若くて可愛いじゃないの。 そりゃあ、結果的に姉さまの方がユーゼスと気が合ったんだろうけど。 だけど……。 ―――怒りながら、落ち込みながら、泣きながら、延々とタバサに向かって吐き出す。 ルイズのその独白は、もうすっかり日も落ちた頃、タバサの実家の使いらしい伝書フクロウがクチバシで窓を叩くまで続けられたのだった。 「それでは魔法学院は当面、閉鎖するということで」 「……まあ、しょうがなかろうなぁ」 オールド・オスマンは渋々といった様子で書簡にサインを書き、判を押す。 賊に襲撃され、教師に死者まで出てしまったとあっては、いくら何でも通常通りに授業を続けることなど出来ないのだった。 「……………」 オスマンは目を細め、その『死者』を作り出した張本人の一人を見つめる。 一方、見つめられた張本人ことアニエス・シュヴァリエ・ド・ミランは、どことなく気の抜けた表情でオスマンに問いかけた。 「……何か、ないのですか」 「は? ……何かって、何かね?」 「私がミスタ・コルベールを殺したことについてです」 「ふむ」 引き出しから水ギセルを取り出し、口にくわえるオスマン。 部屋の端の机であれこれと書き物をしているミス・ロングビルからキツめの視線を向けられるが、そこは長年の貫禄で受け流す。 「正直、言いたいことは色々ある」 「ならば……」 「だが、言ってどうなるね?」 「っ……」 「私は仇討ちを決して肯定はせんが、だからと言って安易に否定もせん。……故郷の村を滅ぼされたんなら、やった相手を恨まん方がおかしいわい」 「……………」 「それに彼は君に対して攻撃らしい攻撃を全くしなかったし、恨み言の一つも言わんかったしの。ならば、君に殺されることは―――少なくともミスタ・コルベール本人は納得していたことだったんじゃろう」 遠くを見つめるような目をしながら、オスマンは目の前のアニエスに言い聞かせるようにして語る。 「加えて言うなら、じゃ。曲がりなりにも君は『女王陛下直属の銃士隊』の隊長じゃろう? そんな相手に対して揉め事を起こしたら、ただでさえ切羽詰まった今のトリステインに余計な火種が生まれかねん」 王宮を向こうに回せるほど若くもないしな、とオスマンは煙とともに溜息を吐く。 確かに、今のトリステインは切羽詰まっている。 国の財政はアルビオンとの戦争費用で火の車、王宮はアンリエッタ女王の独断専行が目に付き、国の各地でその王宮に対する不満が出ていると言うのが現状だった。 こんな状態で『女王陛下お抱えの近衛騎士が問題を起こした』などと国中の貴族に知れた日には、内憂外患どころの話ではなくなってしまう。 それだけでトリステインが潰れるとは思えないが、だからと言って軽視も出来まい。 この国に余計な混乱を招いてしまうことは、オスマンとしても本意ではないのだ。 「ふぅ……」 キセルをふかしつつ、オスマンはなおも話を続けた。 「とは言え、あらかじめ君の素性を知っていれば色々と対策の立てようもあったんじゃがな。平民からのし上がってきたシュヴァリエがいるとは聞き知っていたが、さすがに君がダングルテールの出身だとは思わなんだ」 「……傭兵あがりの女兵士の過去を、いちいち詮索する者はいませんでしたから」 「それにいちいち『自分はダングルテール出身です』と吹聴するわけにもいかんかったじゃろうしの。あの一件の関係者ならば、君の出身を聞いただけで警戒心を抱いてもおかしくない」 「…………そういうことです」 全ては復讐を果たすために。 だから剣を取り、傭兵になり、今の地位にまで登りつめた。 だが。 「それで……これからどうするのかね?」 「……これから?」 「そうじゃ。当面の目的である復讐を果たして、君はこれからどうする? 銃士隊を続けるのかの?」 「……………」 困惑、呆然、放心。 アニエスはそれらの感情表現がごちゃ混ぜになったような顔をすると、ほんのわずかに震える声でオスマンの質問に答えた。 「それは……。これから、考えます」 「ふむ」 眉をひそめ、アニエスを測るような視線を向けた後、オスマンはまた煙を吐き出す。 「それじゃ、辛気臭い話をするのはここまでにしておくか。……数日中には学院を閉鎖させておくから、王宮にもその旨を伝えてくれたまえよ」 「……了解しました。それでは、私はこれで」 「うむ」 アニエスは若干頼りなげな足取りで学院長室を後にする。 そんな彼女の後ろ姿を見送りながら、オスマンは一人ごちた。 「―――叶ってしまった夢は、もう夢じゃないってことかのう」 魔法学院に来たばかりの彼女は、抜き身の剣がそのまま歩いているような殺伐とした空気を振りまいていたが、今ではその剣が根元からポッキリと折れてしまったような印象を受けた。 無理もない、とは思う。 何せ人生最大の目標が驚くほど呆気なく、しかも一気に達成出来てしまったのだから。 『20年来の復讐』と一口に言ってしまうのは簡単だが、その20年の間にどれだけのことがあって、どれだけの思いをしてきたのか余人には知るすべがない。 陳腐な言い回しになるが、辛い時、苦しい時、逃げ出したくなる時だってあっただろう。 しかし、アニエスは『復讐』を心の支えにしてそんな時を乗り越えてきたはずだ。 ……その心の支えが、無くなってしまったら。 人生最大の目標を達成し、心の支えとしてきたものを消失してしまった人間は、これからどうするのだろうか。 「憎んでしかるべき相手ではあるが……フッ、教師という職業のクセじゃな。悩みや迷いの中にある若者を見ると、要らぬ世話を焼きたくなってくる」 自重気味にそう呟くオスマン。 と、そこに。 「『……フッ』じゃありません。煙草はおやめくださいと、もう数えるのも馬鹿らしくなるほど言っていたはずですが?」 今まで秘書用の席で黙々と書類仕事をしていたミス・ロングビルこと本名マチルダ・オブ・サウスゴータが羽ペンを振り、『念力』でオスマンの水ギセルを取り上げた。 「…………人がせっかくカッコよく決めようとしとるのに、茶々を入れんでくれんかのぅ」 「カッコよく決めている暇がありましたら書類の一つでも片付けてくださいな、オールド・オスマン」 空気を読んでいたのかアニエスとの会話には割り込んでこなかったが、そのアニエスがいなくなったので言葉に遠慮がない。 いや、元々彼女はオスマンに対して遠慮など(特に最近は)ほとんどしていなかったのだが。 「はぁ……。まったく、出会った頃に比べて随分とつまらん女になったなぁ、君は。去年の今あたりは私に尻を触られてもニコニコしとったのに、今じゃ肩にすら触れられん」 「居酒屋の雇われ給仕が上客に対して取る態度と、学院長秘書が学院長に対して取る態度を同列に扱わないでください。……それに、ある程度の事例をこなせばあしらい方も分かってきますわ」 「いや、君の場合はあしらい方って言うか、純粋に隙や容赦がなくなったような気が……」 「だって人は変わっていくものですもの。良くも悪くも」 「……元々の地が出て来ただけな気もするがの」 ふへぇ、と情けない溜息をつきつつオスマンは物思いにふける。 おそらくコルベール死亡の件は、事件の際の死傷者として『アルビオンの賊がやった』ことになるだろう。 先ほども考えたことだが、『女王陛下直属の銃士隊隊長がやった』というのは体裁が悪すぎる。 アニエスによるコルベール殺害の場面を見ていたのは、自分を除けばあの場面において戦闘に参加していた者のみ。 他の教師や生徒たちは、解放されると同時に散り散りに食堂から逃げ出したのでその場面を目撃してはいない。 戦闘に参加していたキュルケとタバサとユーゼスは……まあ、特にコルベールに対して思い入れなどもなかったようだし、自分から進んで言いふらすような真似はするまい。 仇討ちだということも彼らにはバレているようだし、タバサなどは彼女の素性を考えればむしろ正当性を認めそうだ。 ユーゼスもコルベールの研究内容になぜか難色を示していたし、キュルケに至っては同じ火メイジでありながら戦争に参加しなかったコルベールを軽蔑すらしていたと聞いている。 ともあれ、コルベールに好感情を抱いてはいるまい。 つまり彼女たちが『銃士隊の隊長がコルベールを殺した』などと騒ぎ立てる心配はあまりないわけだ。ゼロではないが。 (銃士隊の隊員については……さすがにミス・ミランが事情の説明くらいはしておるかの) 同じ平民同士であるし、全く分かってもらえないということはあるまい。 何より『故郷を焼いた火メイジへの復讐』という、同情を引く大義名分がある。 下手をすれば祝福すらされるかも知れない。 よって、こっちの方面から騒がれる心配もそれほどない。 ……真面目な隊員だったら上に報告くらいはするだろうが、どこかの段階でもみ消される可能性が高いだろう。 あとは自分が黙っていれば、この件が王宮に与える影響は多少抑えられる。 (あくまで多少、じゃがな……) 決定してしまった学院の閉鎖も一応『この戦争が終わるまで』という名目になってはいるが、今の状況ではいつ戦争が終わるのか分かったものではない。 実家に戻った女子生徒たちのもとへ、召集令状が届かない保証はどこにもないのだ。 自分と魔法学院はその時のための防波堤になろうとしていたが、さすがに閉鎖されてしまっては手の出しようがない。 もちろんその召集を突っぱねる貴族もいるだろうが、だったら王宮だって強制的に徴兵するだろう。 …………いや、今のトリステイン王宮にそこまでの力が残されているだろうか? かえって国中の貴族から反感をかってしまうだけでは? そもそも、あんな付け焼き刃以下の『軍事教練』しか知らない子供を投入したとして、勝つ見込みはあるのか? いや、それ以前に今の戦況はどうなっている? (―――進退きわまってきたか) 考えれば考えるほど、不安材料しか出てこない。 かと言って、そんな様々な不安材料を自分がどうにかすることも出来ない。 事態は魔法学院の学院長の裁量や機転でどうにかなる領域を、かなり初期の段階で超えてしまっているのだ。 この期に及んでオスマンに可能なのは……せいぜい王宮に一石を投じるか、もしくは誰かが投じた一石が王宮に届くのを防ごうとするくらいか。 ……『防ぐ』と断言出来ないのが何だかなぁ、という感じである。 ぶっちゃけ、オスマンに政治的な発言力はそんなにない。 この国を実質的に動かしているのは宰相兼枢機卿のマザリーニ、そして爵位持ちや将軍などの有力貴族であって、国の教育機関の長ではポジション的に弱いのだ。 (ま、国に関するあれやこれやに今更関わる気もないし、物事ってのはなるようにしかならんが) ともあれ、ここで考えていても事態は何も変わらない。 差し当たって目の前の書類仕事でも片付けるかな……などと思いながら、オスマンがのそのそと手を動かそうとすると、 「失礼します」 「ん?」 ドアが開いて学院教師のミセス・シュヴルーズが姿を現した。 「ミセス・シュヴルーズ。学院長に何か?」 「いえ、ミス・ロングビルにお客様が見えましたので、その呼び出しに」 いかにも人が良さそうなふくよかな体型の女性教師は、微笑みを浮かべて応対してきたミス・ロングビルにそう告げる。 「客?」 「ええ。ミスタ・シラカワという方が『ミス・ロングビルにご用がある』という旨でお見えになっていますが……」 「シラカワ? ……シュウが?」 「はい」 やぶから棒に『実家の居候』の名前が出てきたので、思わず質問を質問で返してしまうミス・ロングビル。 ちなみにシュウ・シラカワは非常に丁寧な物腰やどことなく漂ってくる気品、そして何より形容しがたいプレッシャーのようなもののせいで、ハルケギニアの人間からは初対面で貴族扱いされることが多い。 実際、エレオノールやルイズなどもシュウを呼ぶ時には『ミスタ』をつけていた。 「外で待たせておくのも何ですので、すでに学院長室の近くまでお通ししていますが……」 「……ああ、はい。ありがとうございます、ミセス・シュヴルーズ」 そうしてミセス・シュヴルーズは姿を消した。 これでこの場における自分の役割は終わった、と判断したのだろう。 「それでは学院長。少々席を外しますが、仕事の手は止めないで下さいね」 「分かっとるって。……あーあ、ミス・ロングビルはいいのう。都合よく仕事をサボる口実が出来て」 「そういうセリフは、日頃からきちんと仕事をしてから言ってください」 席を立ち、学院長室から出て行くミス・ロングビル。 「ったく、いきなり何の用だってんだい、あの男は……」 唐突に現れた紫髪の男に対して誰にも聞こえないほどの小声で悪態をつきつつ、彼女はミス・ロングビルからマチルダ・オブ・サウスゴータへと切り替えを行う。 そしてマチルダは学院長室前の廊下に立っていたシュウ・シラカワへと、いかにも不機嫌そうな顔で近付いていくのだった。 前ページ次ページラスボスだった使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7787.html
前ページ次ページラスボスだった使い魔 「……何やってるんだか、あの二人は」 物陰から様子を窺っていたミス・ロングビルことマチルダ・オブ・サウスゴータは、ユーゼスとエレオノールのやり取りを見てそんな感想を漏らした。 半分素人のユーゼスにも見破られてしまったエレオノールの隠れ身とは違い、こちらは完全に気付かれていない。 「『初々しい』って言えば、聞こえはいいけど……」 確かあの二人は、自分よりも年上だったはずである。 だと言うのに、やり取りの内容は十代前半のそれだ。 今時はこの学院の生徒だって、もっと過激なことをやってるのに、あの年でああいう『友達以上恋人未満』みたいな微妙な関係を見ていると……じれったく感じるような、ヤキモキしてくるような、イライラしてくるような。 『もう押し倒しちまえ』だとか、『とっとと抱くなり何なりしろ』などとは言わないが、せめて正式に恋人同士になれよと言いたくなってくる。 「……ま、他人の色恋に口を出す趣味はないけどさ」 自分が口を出すことでこじれてもバツが悪いし、ここは当人同士で何とかしてもらうのがベストだろう。 「―――って、んなことはどうでもいいとして、だ」 銃士隊によって解放されたマチルダは、そのまま身を隠すと見せかけて食堂の近くに潜み、『前職』で身につけたスキルを活用して気配を殺しながら食堂内の推移を見ていた。 別に勝敗が気になったり、危なくなったら手助けしてやろうなどと考えていたわけではない。 いよいよもって危なくなったら、真っ先に魔法学院から逃げ出すためである。 この場合、必然的に学院の女子生徒たちを囮に使ってしまうのでマチルダとしても少々良心が痛まないでもなかったのだが、あいにくと縁もゆかりもないお嬢ちゃんたちにくれてやる命など、持ち合わせてはいない。 マチルダが自分の身を犠牲にしてでも助けたいと思う少女は、別にいるのだ。 こんな所で死んでたまるか、というのが正直な気持ちだった。 とは言え。 「死んでたまるか……はそうだけど、しかし、あのコルベールが死ぬとはね……」 妙な研究ばかりやっている変わり者ではあったが、しかし悪人ではなかった男。 学院の宝物庫について調べた時には、あの男に話を聞いたりもしたか。 それに授業自体は真面目にやっていたし、どうしてか学院長もかなり信頼していた。 「結局は『よく分からない男』で終わったけど……まあ、墓には花か酒の一つでも供えてやるか」 もっとも、死んだシチュエーションは少々謎なのだが。 自分はやや離れた位置から食堂の中を窺っていたので声を拾えず、詳しい事情はよく分からなかった。 ……どうも色々と因縁のある相手があの場所に集まっていたらしく、何だか複雑な人間関係があったようである。 そして、最終的にはあの銃士隊隊長の平民がコルベールを刺し殺した。 「あの女の様子からして、相当恨みをかってたようだけど……」 コルベールの過去に何があったのか、マチルダは知らなかった。 余計な詮索はされるのもするのも好きではないし、深入りだってしない方がいいだろう。 人に歴史あり。 しかし歴史に関わりすぎてもあまり良いことはない。 何せ自分自身がその歴史の裏側……王の弟がエルフを愛人にしていたという事実に少なからず関わっていたのだから、実感もこもるというものである。 「ま、どうせ無関係だしねぇ」 そうしてマチルダは思考を切り替えると、今回の件を改めて振り返り始めた。 「……………」 何にせよ、まずは自分が手を下すことがなくてよかったと言える。 それなりの使い手だということがバレてしまうと、この魔法学院にいづらくなりかねないのだ。 ……そもそもこういうトラブルに見舞われたこと自体が不幸だと言えなくもないのだが、ここは不幸中の幸いということにしておこう。 「色々と仕事は増えそうだけど……」 ボロボロになってしまった食堂の修繕、この事件の事後処理、関係各所への説明……などなど、片付けなくてはならない問題はいくつかある。 しかし、食いっぱぐれるかも知れないことに比べれば些細な問題だ。 ウェストウッド村への仕送りだって続けられるだろう。 この戦時下であの村の子供たちの安全そのものが気にかかりはするが、まあ、シュウもいるのだから大丈夫なはず。 そのはずだが……。 「一応、様子を見に戻るべきかね」 何と言うか、まあ、心配なものは心配なのだ。 そろそろお互いに子離れ親離れしなきゃいけないかなー、とは思うものの、そのタイミングも上手くつかめないし。 ああもう、世の父親母親は皆こんなことで悩んでいるのだろうか。 「ふぁ……」 とりとめもなく色々なことを考えていると、不意にマチルダの口からあくびが漏れる。 そう言えば、自分のように人質となった者たちは夜中に叩き起こされたのだったか。 「…………眠い」 気が付けば、太陽はもうすっかり顔を出していた。 時間的にはそろそろ朝食のはずなのだが、食堂であんなことが起きた以上は普通に出される可能性は薄いだろうし、自分で用意するのもかったるい。 「寝るか……」 数瞬の思考の後、食欲よりも睡眠欲を優先することにしたマチルダ。 ふと向こうを見ると、エレオノールが顔を真っ赤にしながらユーゼスを『レビテーション』で運んでいる。 この後に向かうのは医務室か、それとも彼の部屋か。 ……まあ、何にせよ二人の中が急進展ということはないだろう、多分。 「やれやれ」 マチルダはそれを苦笑まじりに眺めたあと、魔法学院を照らす朝日に目を細めながら、あくび混じりに歩き出すのだった。 マチルダがウェストウッド村の安否について思いを馳せた、半日ほど後。 そのウェストウッド村では、シュウ・シラカワが神妙な顔で考えごとをしていた。 「……ふむ。やはりネックとなるのは発動させるためのエネルギーですか」 ハルケギニアとラ・ギアスを往復して持ち込んだ電子端末を操作し、シュウは『目下の研究対象』にして懸念事項に取り掛かる。 「ゲッター線は下手をすると取り込まれる危険性がありますし、アンチA.T.フィールドも一歩間違えればハルケギニアの住人がLCLになってしまう……。ムートロンもポテンシャルを十分に引き出せるのはライディーンのみ……」 とは言え、『研究対象』の仕組み自体は既に解析が完了していた。 『研究対象』が存在する場所についても、すでに絞り込みは出来ている。 最初は自分の愛機であるネオ・グランゾンを疑ってみたが、よくよく考えてみれば『このネオ・グランゾン』にはエアロゲイター……ゼ・バルマリィ帝国のものを元にした技術は使われていても、それ以外の異星人の技術は使われていない。 むしろゼ・バルマリィ帝国製のブラックホールエンジンを元にして、対消滅エンジンを自分で作って搭載したのである。 『この世界の』グランゾン、およびネオ・グランゾンについては、開発者である自分が一番よく分かっているのだ。 自分の機体には、妙な仕掛けは施されていない。 つまり求める『研究対象』は、ハルケギニアのどこかに存在していることになる。 あとはどこに存在するのかの調査になるが……まあ、それだけ分かってしまえばそれほどの手間ではなかった。 「……………」 しかし問題は、そのために必要なエネルギーだった。 出来ればタキオン粒子に似た性質を持ち。 エネルギー自体が成長するようなもので。 なおかつ、扱いやすいものが望ましいのだが……。 「……私の知識にあるものでは、どうにもならないようですね」 候補として上がったのは、性質に興味をそそられても扱いがきわめて危険だったり、あるいは特定のロボットや人間にしか扱えないようなものばかり。 いくら何でも、『研究対象』の解決と一緒にハルケギニアも崩壊させるのはよろしくない。 また、出来れば余計な因子をこれ以上ハルケギニアに持ち込みたくもない。 要するに、シュウが独力で何とかしなければならないというわけである。 「ここは一度、地上に出る必要がありますか……」 シュウが地上……いわゆる『地球世界』に出たのは、イージス計画の阻止のために月面に上がったのが最後だった。 色々な手段を使って入手した情報によると、あれ以降にも地球には様々な事件が起こり、新たな技術やエネルギーが開発・発見・活用されたりしたらしい。 その中に必ずしもシュウの目的と合致するものがあるとは限らないが……いずれにせよそれらの新技術・新エネルギーについて興味はあるし、知識を得て損はないだろう。 そうと決まれば、ハッキングの準備でも進めておくか。 今後の行動指針をそう決定し、準備に取り掛かり始めると……。 「シュウさん、いますかー?」 コンコン、という控えめなノックと共に、これもまた控えめな少女の声が響く。 シュウは端末を操作する手を止め、その少女の声に応じた。 「おや、もう夕食の時間ですか?」 「はい。……こっちの部屋に持ってきた方がよかったですか?」 わずかに開けられたドアから、金髪に長い耳の少女がヒョイと顔を出す。 少女……ティファニアに対してわずかに微笑みながら、シュウは作業の手を止めて立ち上がった。 「いえ、ちょうど研究も一段落したところですからね。気分転換も兼ねて、皆さんと食事を取るとしましょう」 「はいっ」 そうして二人は連れ立って食卓へと向かう。 ごく短い距離を移動する間、心なしかティファニアの表情は弾んでいるようであり、また彼女の様子を見てシュウも薄くではあるが笑みを浮かべていた。 しかしそれと同時に、シュウはティファニアの出自について考えを巡らせてもいた。 ……この少女はこう見えて、なかなか数奇な人生を歩んでいる。 王族の父と、異教徒の母。 周囲からは迫害される宿命を持ち。 幼い頃は母親に守られ。 そして今は王族を追放され、世の中から隠れるようにして暮らしている。 「……………」 シュウとしては、何とも既視感を覚える生い立ちだった。 まるで何者かの意思が働いているような気さえ起きてくる。 だがラ・ギアスとハルケギニアの間には、自分以外の接点はないはずだ。 当然、二つの世界を又にかけた思惑なども……少なくとも今の所は存在していない。 ということは。 (偶然、ですか……) 辟易しつつ、改めて『研究対象』を片付ける考えを強くするシュウ。 この案件をこのまま放っておくのは、ハルケギニアやラ・ギアス、地上、バイストン・ウェルなどの様々な世界……そして何より自分に対しても決して良い影響を与えるとは限らない。 あの快男児のように、世のため人のため―――などというつもりは毛頭無いが、他でもない自分を巻き込んでしまった以上は……。 「どうしたんですか、シュウさん? なんだか難しい顔してますけど……」 「む……」 決意を新たにしていると、隣を歩いていたティファニアから声をかけられた。 どうやら顔に出てしまっていたらしい。 「……いえ、少し考えごとをしていただけです」 「?」 まあ、焦る必要もないと言えばない。 地底から古代の帝国が侵攻を開始したとか、植民地扱いされた移民が大規模な独立戦争を起こしたとか、異星人が何種類かまとめて侵略に来たとか、知的生命体を滅亡させるために天文学的な数の宇宙怪獣が飛来したとか、超重力衝撃波が迫っているとかでもないのだし。 強いて言うならアインストが気にかかるが、脅威と言うほど脅威でもあるまい。 巨大なサイズならともかく、2、3メートル程度の大きさならハルケギニアの人間でも対処出来るはず。 遠からず片付けることは決定していても、今すぐに行わなければならないほど切迫した状況というわけではないのだ。 (それに、なるべくなら多くの人間に目撃していただく必要がありますからね……) そんなことを考えながらシュウはティファニアと共に食事用の小さな家に到着し、村の子供たちが集合している食卓に参加する。 「おや? ここにいましたか、チカ」 「あ、御主人様。お先にいただいてまーす」 シュウのファミリア(使い魔)であるチカは既にテーブルの上にちょこんと乗っており、小さな水入れにクチバシをつけて水分を補給していた。 なお余談ではあるが、ラ・ギアス製のファミリアは一ヶ月程度ならば飲まず食わずでも大丈夫な作りになっている。 「それではいただきますか」 「はい、どうぞ」 そうしてシュウは子供たちのワイワイとした声を聞きながら、ティファニアの用意した食事を口に運び始める。 最初の内はウェストウッド村の子供たちもシュウの得体の知れなさを何となく感じ取っていたのか、微妙に警戒していたりしたのだが、特に害はないということが分かると、こうして抵抗なく食卓を共にする程度のことは出来るようになっていた。 とは言っても好奇心の強いジャックやサマンサあたりはともかくとして、気の弱いエマには相変わらず距離を置かれているし、ティファニアに好意を抱いているジムなどには事あるごとに睨まれたりしているが。 (あの年頃は、色々と難しくもありますからね……) シュウがあれくらいの年齢の時と言えば…………あまり思い出したくない事件の頃、ちょうどチカを作った前後あたりであろうか。 無垢と言うほど無垢でもないが、穢れと言うほど汚れてもいない頃。 ある意味、『最も自由だった』かも知れない期間。 ……こうして年齢を経てからあらためてその年頃の子供たちを見ると、ある種の羨望を覚えてしまう。 そして思い出す。 王宮。従兄弟たち。クリストフだった時の自分。そして自分に『シュウ』という名をくれた、あの――― (フ……。今更そんなことに思いを馳せたところで、どうにもなりはしませんか) 過ぎ去った過去を苦笑とともに振り払い、シュウは現在のこと、差し当たっては目の前の食事に集中する。 と、その時、ティファニアがあることを思い出した。 「あ、そうだわ。あの人たちにも食事を持っていかなくちゃ」 「あの人たち? ……ああ、彼らですか」 「はい。もうそろそろ傷も完治するはずですよ」 ティファニアは自分の長い耳を隠すため部屋の隅に置いてあった帽子を被ると、子供たちに手伝ってもらいながら数人分の食事を運んでいった。 「……………」 『あの人たち』というのは、作戦行動中に撃墜され、瀕死の重傷を負った状態でこのウェストウッド村の近くに墜落してきた竜騎士たちのことである。 一週間ほど前に子供たちによって発見された彼らは、村まで運ばれ、ティファニアの母の形見である『先住の魔法』の水の力とやらで治療を施されたのだ。 その甲斐あって、竜騎士隊は快方に向かっている。 あとは折を見て彼らの記憶をティファニアの魔法で奪い、一匹だけ生き残った竜(竜騎士隊は全員生存していたが、彼らが乗っていた竜は一匹を除いて全滅していた)に乗せて帰還させればこの一件は落着する。 なお、そのティファニアの行動についてシュウは特に口を出していない。 これはシュウがこの件に何の興味もないということもあったが、ティファニアの意思を尊重したいという思いもあった。 ティファニアは自分やマチルダに依存している節がある。 特に自分に対してはその傾向が強い。 これは両親がすでに故人であること、ハーフエルフという人間にもエルフにも忌み嫌われかねない存在であること、またウェストウッド村の子供たちの面倒を見なければならないという重責……などなど、色々なストレスの反動のようなものであるとシュウは分析していた。 要するに、甘えられる相手が欲しかったのだろう。 そんな彼女が自分で考え、自分で決めたことなのだから、そこは大事にしてやりたかった。 何と言うか、妹がいたらこのような感じなのかも知れない。 ……ちなみに親しかった従姉妹であるセニアとモニカも自分より三歳ほど年下ではあるが、あの二人は『妹』と言うよりも『幼馴染』あたりの方がしっくり来るのである。 閑話休題。 何にせよ、あの竜騎士隊は明日にでもこの村を出ることになるだろう。 まさに『先住の魔法』に込められた精霊の力の恩恵と言うべき結果だ。 (そう言えば……) シュウは『精霊の力』というキーワードから、水の精霊からアンドバリの指輪の奪還を依頼されていたことを思い出す。 ……アルビオンの現皇帝であるクロムウェルがそれを持っているらしいが、戦争中という今の状況からすれば奪還は難しいと言えるだろう。 ここは様子を見つつ機会を待つべきだろうか。 (……いえ、むしろ今を逃せば奪還が困難になるかも知れませんね) 戦争中ということは警戒が厳しくなるということであるが、同時に混乱が起こりやすいということでもある。 自分もかつては戦争のドサクサにまぎれて誘拐行為を行ったり、優秀な人材を引っこ抜いたりしたものだ。 ならば今の内にクロムウェルの所に行き、手早くアンドバリの指輪を盗むなり強奪するなりしておきたい。 だが。 (モニカを連れ出した時はラングランの神殿に忍び込んでプラーナを察知するだけだったので簡単でしたが、今回は勝手の分からないハルケギニアのこと……。しかもプラーナの探知に頼ることも出来ませんし……) プラーナやオーラ力という『特殊な力』の概念そのものが無い世界ではプラーナの特徴は判別しにくいし、何よりクロムウェルのプラーナなどシュウは知らないのである。 (誰かに案内を頼めればいいのですが) しかしクロムウェルがいるであろうアルビオンの王宮、もしくは重要拠点に詳しい人間などシュウの知り合いにいただろうか。 (ティファニアに期待するのはさすがに酷ですしね……) いくら王族の血を引いているとは言え幼少時は屋敷に閉じこもりきりで、今は小さな村で暮らしているような少女にそこまで求めるのは無理だ。 と、なると。 (……ふむ) 「行って来ましたー」 シュウが案内人となる人物に当たりをつけたところで、竜騎士隊に食事を持っていったティファニアたちが戻って来た。 子供たちは食卓につき、ティファニアは台所に立って、このあたりで採れる果物である桃りんごの皮をナイフでむき始める。おそらくデザートにするつもりなのだろう。 そしてティファニアが桃りんごの皮をむき終わり、実の方を切り始めたところでシュウが彼女に声をかける。 「ティファニア」 「はい、どうかしましたか?」 「マチルダのことについて、少々お聞きしたいのですが」 「……………」 ざくっ ティファニアによって真っ二つに両断される桃りんご。 一方、場の空気から『何か』を感じ取ったチカはブルブルと小刻みに震え始めていた。 「……マチルダ姉さんがどうかしたんですか、シュウさん?」 「ええ。今度、彼女をお誘いして二人で出かけようかと思いまして」 「…………あら、そうなんですか?」 「ハルケギニア……と言うよりアルビオンについては彼女の方が詳しいですからね。太守の娘という立場上、城やどこかの砦などに足を運ぶ機会もあったのでしょう?」 「………………ええ。多分、そうだと思いますけど」 「それは重畳。……しかし本来ならば女性をエスコートするのは男性の役目なのですが、今回の道案内はマチルダにまかせきりになってしまいますね」 「……………………うふふ。しょうがないですね、シュウさんは」 ティファニアはニコニコと笑いながらシュウと受け答えをする。 ちなみにその受け答えの最中、彼女の手元にある桃りんごはざっくざっくと切断され続けていた。 「……………」 ティファニアは切った桃りんごを皿に盛り付けてテーブルの上に置くと、この場から飛び立とうとする青い小鳥に笑顔のままで声をかける。 「チぃ~カちゃぁ~~ん?」 「ひいっ!!?」 「あら、どうしたの? ……せっかくデザートに桃りんごを切ったんだから、食べてくれるととーっても嬉しいんだけど……。確か好きだったわよね、桃りんご?」 「え、えええ、えっと、確かに好物ですけど、あの、ティファニア様、そういうセリフは、せめてナイフを手に持たないで、その、言っていただけないで、しょうか……?」 「もう、チカちゃんったら。別にわたしがナイフを持ってるからって、どうということはないでしょう?」 「いや、何て言うか……そのナイフからしたたり落ちる果汁が、何かを暗示しているような……」 「『何か』って、なぁに?」 「うっ……。い、いえ、何でもございません……」 妙な雰囲気を撒き散らしつつ会話を行うティファニアとチカ。 シュウはそんな彼女たちの様子を横目で見ながら、今後のことについて考えを馳せる。 (それでは近日中にトリステイン魔法学院に行くとしますか。……マチルダのこともそうですが、ユーゼス・ゴッツォとも話はしておきたいですからね) ついでのような扱いになってしまうが、ユーゼスと定期的に接触しておく必要はある。 ……自分のいた世界のユーゼスとは様々な面が異なっているとは言え、アレは『ユーゼス・ゴッツォ』なのだ。 動向を把握しておくに越したことはないだろう。 (やることや気になることは色々とありますが……さて、これらの要素がどのような結果をもたらすのか……。そして、私がこの世界に召喚されたことにどのような意味があるのか……) いずれは明らかになるにせよ、今の段階では誰にも分かるまい。 シュウにも、ユーゼスにも、そして『それ以外の存在』にもだ。 (……それらが一体どのような答えを出すのか、興味はありますが……) しかし。 シュウ・シラカワの最終目的はその『結果』でも『意味』でも、ましてや『研究対象』の解明・解決でもない。 何よりも果たすべきは、 (ティファニアは特に意識して私を召喚したわけではないのですから構わないとしても……。アレを仕掛けた人間には、この私を巻き込んだ報いを受けていただかなくてはなりませんね……) 内心で復讐心を湧かせながら、シュウは静かに微笑を浮かべるのだった。 前ページ次ページラスボスだった使い魔
https://w.atwiki.jp/textview/pages/12.html
シャープ製携帯でテキストを読む 対応機種 DoCoMo DOLCE SL(SH902iSL)、SH902iS、SH902i、SH901iS、SH901iC、DOLCE(SH851i)、SH702iS、SH702iD、SH700iS、SH700i、SH506iC SoftBank,Vodafone,J-sky 911SH、910SH、905SH、904SH、811SH、810SH、705SH 403SH(V403SH)、903SH、902SH、804SH、802SH、703SHf 703SH、V801SH、V604SH、V603SH、V602SH、V601SH V501SH、V402SHV401SH、J-SH53 Auは不明 W41SHに組み込みの「電子ブックビューア」無いのを確認 W51Shもなし 簡単な流れはこちら 使用方法 機種により細かな点は異なるが、 それをSDカードのブック(Book)フォルダーにtxtファイルを入れる。 フォルダーが見つからない場合は、SDカードを携帯に入れ、携帯のメニューから電子ビューアのフォルダーを一度開くと フォルダーが作成される。 対応フォーマット txtファイル 大きさに制限はないように思われる。(MB単位のテキストも閲覧可能) XMDF形式(.zbkファイル) 画像やリンクなどが埋め込みなどがされていて、多くの電子書籍に使われている。 電子書籍専用の形式で、この形式のファイルの作り方は、現在、会社向けに販売されているソフト以外では 作成できない。(個人では作成不可) PC用に販売されているものでも閲覧はできた。 テキストビューアの仕様 文字サイズ切替(古めの機種は小と中の2種類、機種によっては5段階ある) 縦書き/横書き表示切替 ルビ(ふりがな)表示(青空文庫形式) しおり機能(多くの機種は5枚)*読んでいた所までは自動で記憶されている。 XMDF形式は画像も見れる タグはそのまま表示される SoftBankの一部機種では文字コード(sjis、laten)が追加されている。 縦書き表示時の操作 左右キー 1行ごとスクロール 上下キー 1ページごとスクロール 横書き表示時の操作 上下キー 1行ごとスクロール 左右キー 1ページごとスクロール 冒頭部分 メニュー一覧。しおりは2つ設定できる メニューから「表示設定」 画像はJ-SH53(最古の機種) 必要なもの ・PCからSDカードにデータ移動させるにはSDカードに対応した読み込み&書き込み用装置(リーダ/ライター) が必要です(千円台~数千円) 携帯電話の周辺機器を売っているお店か、パソコンの周辺機器を売ってるお店で買えます 一部機種では直接USBをつなげる事ができるものもあります。 持っていない方は メールで、テキストをzbkの拡張子にしたテキストを添付して送ると電子ブックとして読めます。 しかし、サイズ制限などがあると思うので、SDリーダーをお勧めします。 ■関連サイト 有料(XMDF) 【スペースタウン電子辞書】http //www.spacetown.ne.jp/k-tai/dictionary/ 【Space Townブックス】http //www.spacetown.ne.jp/books/ 【デジタル書店 グーテンベルク21】http //www.gutenberg21.co.jp/ 無料(TEXT) 【青空文庫】http //www.aozora.gr.jp/ 【電子図書館】http //www.eonet.ne.jp/~log-inn/ 電子出版関連リンク集 http //www31.ocn.ne.jp/~h_ishida/LinkPage.html
https://w.atwiki.jp/illuminate/pages/327.html
テトラグラマトンらの天使及び使徒たち、ヒエロニムスほかの愚者の地人材たち、及びセディエルクのスキルを掲載。 通常スキル 必殺技スキル 召喚スキル 通常スキル スキル名 分類 攻撃力 発動距離 射程 消費MP 属性 特性 備考 使用ユニット プロトンビーム 遠距離 (Attack+Magic)×75% 800 800 10連射 範囲 減速20% テトラグラマトン亜使徒アウト・デ・フェ プロトンフラッシュ (Attack+Magic)×100% 300 300 マインドヴェノムⅡ 魔法 Magic×100% 850 850 -20 闇 7連射 減速20% 魔吸付加100% 追加発動:Magic×20% 魔力or魔抵抗低下 姿なき異教徒の為の地の番人 アニマ審判 魔法 Magic×15% 900 5000 7000 時空 3×15連射範囲 貫通 減速20% 発射まで待機時間(中)あり 濁る意識 魔法 Magic×30% 400 350 0 闇 範囲 減速20%沈黙幻覚付加30% ヒエロニムス神の右目 神の左目使徒ハイペリオン傲慢 憤怒 嫉妬人々を誘う赤い火亜使徒アウト・デ・フェ (ランダム連鎖) Magic×10% 150 4連射 範囲毒麻痺幻覚付加30% 十字状 Magic×10% 200 3連射 範囲毒麻痺幻覚付加30% 円状 イシュタル 魔法 Magic×80% 1~670 620 100 時空 近接不可 貫通 減速20% 緑色の弾丸本体 セディエルクベルフェゴール ヒエロニムス (連鎖) Magic×50% 0 時空 1連射 緑色の軌跡命中時の紫の炎 四終・地獄 魔法 Magic×120% 400 400 0 闇 24連射 範囲 減速20%沈黙幻覚付加30% 濁る意識を最も近い敵に集中砲火射程内に敵不在時は円状に展開 ナレンシフ (ランダム連鎖/追加発動) Magic×10% 150 4連射 範囲毒麻痺幻覚付加30% 十字状 Magic×10% 200 3連射 範囲毒麻痺幻覚付加30% 円状 四終・最後の審判 魔法 Magic×50% 1~1000 1000 100 火 3連射 近接不可 3連射どころではない超連射勝利の威光のようなもの ナレンシフ 困惑の枝 魔法 Magic×135% 300 300 40 闇 3連射 減速20% 幻覚付加100% 追加発動:ヘドノフォビア召喚 色欲 スキル名 分類 攻撃力 発動距離 射程 消費MP 属性 特性 備考 使用ユニット アイズ・オブ・テラー 魔法 Magic×110% 800 800 10 火 3連射 範囲 減速20% 神の右目 神の左目 エネルギー放出 魔法 Attack×150% 730 730 50 9連射 範囲 減速20% 追加発動:Magic×40% 射程200 火属性 範囲 貫通 使徒ヨルムンガンドヨルムンガンドの尻尾 高エネルギーレーザー 遠距離 Magic×100% 450 400 火 3連射 範囲 貫通 減速20% 侵略者アダムスキーの同名スキルとは別物 使徒ハイペリオン 幽鬼の浸透 魔法 Magic×25% 900 900 50 時空 16連射 範囲 減速20% 消費MP以外は必殺技の方と同性能距離900を真っ直ぐ往復 発動中無敵行きの間に範囲攻撃が16回発生 使徒ヌメノール王 アストラル・オーシャン 魔法 Magic×25% 2000 300 0 時空 4×120連射 貫通 減速20% 発動距離が長い以外は必殺技の方と同性能 使徒ノレドラサウム カッシーニ・レポート 魔法 Magic×8% 700 700 100 時空 15連射 範囲 貫通 減速20%沈黙付加15% 消費MP以外は必殺技の方と同性能 使徒ハイペリオン (連鎖) Magic×5% 60/40/80 時空 範囲 貫通幻覚付加100% ヴァルハラの呼び声 遠距離 64 300 闇 10連射 範囲 貫通 減速20% 必殺技の方と同性能 使徒エインヘイヤル (連鎖) Attack×30% 60 時空 貫通 インフェルノ 魔法 Magic×100% 500 500 100 火 6連射 減速20% 消費MP以外は必殺技の方と同性能実は判定無し(命中しない) 使徒ヴリトラ (並行発動) Magic×40% 0 火 火の玉が跳ねて爆発実質的なダメージ部分 フレイムピラー 魔法 500 500 -10 火 3連射 減速20% 曲射 一番近い敵まで詰められる 使徒ヴリトラ (連鎖) Magic×55% 0 範囲 貫通 必殺技スキル セディエルク&テトラグラマトン専用 スキル名 分類 攻撃力 発動距離 射程 消費MP 属性 特性 備考 使用ユニット イシュタルⅡ 魔法 Magic×80% 1300 2800 0 時空 6連射 誘導 貫通 減速20% 弾丸を身に纏う 射程は実質0 セディエルク (連鎖) Magic×50% 0 時空 1連射 緑色の軌跡命中時の紫の炎 イシュタルⅢ 魔法 Magic×80% 1300 2800 0 時空 6連射 誘導 貫通 減速20% 弾丸を近くの敵に放つ セディエルク (連鎖) Magic×50% 0 時空 1連射 緑色の軌跡命中時の紫の炎 エネルギー放出 魔法 500 40 0 36連射 減速20% 発動可能回数:3攻撃力は魔力依存 セディエルク (連鎖) Magic×60% 10 時空 範囲 黒い影 →(連鎖) Magic×40% 200 時空 範囲 貫通 爆発 幽鬼の浸透 魔法 Magic×25% 900 900 0 時空 16連射 範囲 減速20% 発動可能回数:2距離900を真っ直ぐ往復 発動中無敵行きの間に範囲攻撃が16回発生 セディエルクテトラグラマトン アストラル・オーシャン 魔法 Magic×25% 700 300 0 時空 4×120連射 貫通 減速20% キャラクターの周囲に4つの渦が順に発生順番は反時計回りに右斜め後方~左斜め後方 カッシーニ・レポート 魔法 Magic×8% 700 700 0 時空 15連射 範囲 貫通 減速20%沈黙付加15% (連鎖) Magic×5% 60/40/80 時空 範囲 貫通 幻覚付加100% トリニティ・克肖者アルザマス16・TSAR 魔法 Magic×40% 1300 1000 10 神の火 36×12連射 減速20% 恐慌付加40% 同心円状に多重展開 セディエルク (同時発動) Magic×150% 140 神の火 60×2連射 恐慌付加80% 発動地点付近に円状に展開 Magic×150% 135 神の火 3×60×2連射 恐慌付加80% Magic×1% 1300 神の火 1500連射 毒付加100% 時間差で降り注ぐ黒い雨 エデン人材&ナレンシフ専用 スキル名 分類 攻撃力 発動距離 射程 消費MP 属性 特性 備考 使用ユニット 穢れた刃 遠距離 (Attack+Magic)×25% 400 500 神聖 5×4連射 範囲 減速20% テトラグラマトン使徒ヌメノール王 ドゥームズデイⅡ 魔法 500 20 600 12連射 減速20% 発動可能回数:2全方位ドゥームズデイ テトラグラマトンナレンシフ (連鎖) Magic×40% 500 闇光火 10連射 貫通 ティルヴィング 接近 Attack×0% 発動可能回数:5追加発動:Magic×1% 射程120貫通 即死石化付加25% テトラグラマトンナレンシフザイドリッツ エンジェルダスト 魔法 Magic×40% 1300 1300 200 神聖 36×12連射 範囲 減速20% クールタイム15 発動可能回数:3 テトラグラマトン エネルギー放出 魔法 500 40 0 36連射 減速20% 発動可能回数:3攻撃力は攻撃依存 (連鎖) Attack×50% 10 時空 範囲 黒い影 →(連鎖) Attack×40% 200 時空 範囲 貫通 爆発 ヴァルハラの呼び声 魔法 64 300 0 闇 10連射 範囲 貫通 減速20% テトラグラマトン (連鎖) Attack×30% 60 時空 貫通 インフェルノ 魔法 Magic×100% 500 500 0 火 6連射 減速20% 実は判定無し(命中しない) テトラグラマトン (並行発動) Magic×40% 0 火 火の玉が跳ねて爆発実質的なダメージ部分 ミニエンジェルダスト 遠距離 Magic×50% 300 500 神聖 36×3連射 範囲 減速20% 神の右目 神の左目亜使徒アウト・デ・フェ 折れた聖剣 遠距離 (Attack+Dext)×80% 200 200 範囲 貫通 減速20% 発動可能回数:3 使徒ヌメノール王 四終・天国 遠距離 600 200 神聖 6連射 減速20% 6方向に展開した天使が旋回 ナレンシフ (連鎖) Magic×75% 0 神聖 天使の軌道上の光球が爆発 四終・死 魔法 1000 500 200 闇 36連射 減速20% 死神の行列 ナレンシフ (連鎖) 2000 闇 方向をランダムに変えて直進 →(連鎖/追加発動) Magic×20% 120 貫通 石化即死付加50% ナイトメアミストⅡ 魔法 500 0 100 9連射 減速20% 3倍濃厚なナイトメアミスト ナレンシフ (連鎖) Magic×1% 130 64連射 範囲 貫通 混乱付加100% 中間の黄の霧 Magic×1% 250 100連射 範囲 貫通 混乱付加100% 外側の赤の霧 Magic×1% 30 40連射 範囲 貫通 混乱付加100% 内側の青の霧 召喚スキル 通常スキル スキル名 分類 召喚ユニット 消費MP 特性 備考 使用ユニット 天使召喚 召喚魔法 熾天使ホムンクルス 智天使ホムンクルス 0 10連射 ベルフェゴール亜使徒アウト・デ・フェ 神獣召喚 召喚魔法 スフィンクス ケンタウロス ケルベロス セイレーン 100 熾天使ホムンクルス智天使ホムンクルス マインドコントロール 召集技 旗本 後期型火縄銃兵 帝国陸軍騎兵捜索連隊御巫御神子 東方新式集団 歩兵中正式歩槍兵紅夷大砲 重装象銃兵 アクバル・カルヴァリン象兵忍者 シヴァ神官 天仙 ナーガ神官 鉄人兵 20連射 姿なき異教徒の為の地の番人 パイロフォビア召喚 召喚魔法 堕落者パイロフォビア 100 ヒエロニムス デモフォビア召喚 堕落者デモフォビア ネクロフォビア召喚 堕落者ネクロフォビア アフェフォビア召喚 堕落者アフェフォビア ヘドノフォビア召喚 堕落者ヘドノフォビア ファゴフォビア召喚 堕落者ファゴフォビア アダムスキー出撃 召喚魔法 侵略者アダムスキー 0 インソレンスパラノイア召喚 魔法 インソレンスパラノイア 350 攻撃魔法扱いなので無限に召喚可能 エゴイズム 混沌の目 召喚魔法 スターベーション エゴイズム フライングロッドアーソン エストラス エンヴィー アイドラー 900 20連射 停止 ナレンシフ 必殺技スキル スキル名 分類 召喚ユニット 消費MP 特性 備考 使用ユニット 尾を召喚する 召喚魔法 ヨルムンガンドの尻尾 0 減速20% 使徒ヨルムンガンド アイドラー召喚 魔法 アイドラー 300 5連射 減速20% 発動可能回数:2 怠慢 アフェフォビア召喚 堕落者アフェフォビア 10連射 減速20% ポルタサンタ 魔法 熾天使ホムンクルス 智天使ホムンクルス 0 減速20% 約900カウント持続約36カウント毎に召喚 セディエルク テトラグラマトン ポルタデラモルテ スターベーション エゴイズム フライングロッドアーソン エストラス エンヴィー アイドラー 約900カウント持続約31カウント毎に召喚 セディエルク ヒエロニムス ナレンシフ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6442.html
前ページ次ページラスボスだった使い魔 トリステイン魔法学院の中庭、テーブルと椅子を並べて作られた即席のラウンジの一席にて。 「モンモランシー、君の前では水の精霊も裸足で逃げ出すんじゃないかな。ほら、この髪……まるで金色の草原だ。キラキラ光って星の海だ。ああ、僕は君以外の女性がもう、目に入らないよ」 ギーシュは、持っているボキャブラリーを総動員してモンモランシーを口説いていた。 最初は『バラのようだ』『野バラのようだ』『白バラのようだ』『瞳なんか青いバラだ』『恥らう姿はつぼみのバラだ』と自分の得意分野であるバラを全面に押し出していたのだが、ネタが尽きてきたのでモンモランシーの分野である水の精霊を引き合いに出し始めている。 「……………」 そんな風に立ったり座ったり身振り手振りを交えたりしながら熱心に口説かれると、モンモランシーとしても悪い気はしなかった。 だが、相手は女グセが悪いことで有名なグラモン家の子息、ギーシュ・ド・グラモンだ。 そう簡単に心を許すわけにはいかない。 (よし……) 取りあえず、不満げな表情をしながらもギーシュに向かって左手を差し出す。 それを見たギーシュは、ああ、と感嘆の声を出してその手に口付け、そのままモンモランシーの顔へと……。 「待って。……その前に、ワインで乾杯しましょう」 唇を近付けようとした所で、彼女に指で制された。 「そ、そうだね!」 慌てた様子でグラスにワインを注ぐギーシュ。 そのワインが注ぎ終わった時を見計らって、すかさずモンモランシーは声を上げた。 「あら? 裸のお姫様が空を飛んでる!」 「えっ? どこ? どこどこ!?」 口から出任せのモンモランシーの言葉に過敏に反応して、ギーシュはキョロキョロと周辺を見回した。 (ったく、コレだから信用出来ないのよ……) モンモランシーは呆れと苛立ちを感じつつ、その隙にソデの中から小瓶を取り出す。 そしてその小瓶の中に入っている『透明な液体』を、並べられているグラスの片方に垂らした。 (これでよし) うむ、と頷くモンモランシー。 ……彼女がワインの中に混入させた『透明な液体』の正体とは、惚れ薬である。 先日、ユーゼスとの話し合いの中で出た『強力な精神操作系のポーション』の研究成果がこれであった。 最初はモンモランシーも、これを作成するだけで実際に使うつもりはそれほど無かったのだが、いざ完成させてしまったからには使ってみたくなるのが人間という生き物だ。 しかし、こんなモノを気軽に使うわけにもいかない。 でもやっぱり使ってみたい、いやいやバレたらタダじゃ済まない……と自室で軽く悩んでいたところに、ギーシュが『話がしたい』とやって来たのである。 これ幸いと『実験対象』を見つけたモンモランシーは、ついに一時的に良心をかなぐり捨てることにした。 (ヨリを戻すにしても、他の女の子に目移りされるのはガマン出来ないし……) まさに趣味と実益を兼ねた、完璧な使用動機である。 大体、自分が作ったモノを自分が好きなように使って、何が悪いと言うのだろうか。いや、悪い場合も多々あるが。 ともあれ、その惚れ薬はギーシュの目の前にあるワインの中だ。 「嘘よ。じゃあ、乾杯しましょ」 「や、やだなあ、ビックリさせないでくれ……」 ニッコリと微笑んでグラスを手に取るモンモランシーと、息を吐いてグラスを手に取るギーシュ。 (……あれ?) と、ここでモンモランシーは重要なことに気が付いた。 (…………どっちに入れたんだっけ…………?) 右のグラスだったか、左のグラスだったか。 いや、そもそも自分が手に取っているのは、どっちのグラスだっただろうか。 (マ、マズイわ……) このまま行けば、2分の1の確率で自分が惚れ薬を飲んでしまうハメになる。 ……こうなったら、最後の手段を使うしかない。 「あっ、白昼堂々こんな場所で服を脱ぎ始めてる女の子がいるわ!」 「な、なんだってぇー!?」 モンモランシーの叫びに過敏に反応し、再び周囲を見回すギーシュ。なんと単純な男であろうか。 もはや呆れを通り越して諦めすら感じてきたが、今はそれよりも惚れ薬だ。 モンモランシーはササッと手早くギーシュのグラスに惚れ薬を混入させる。これで、少なくともギーシュは確実に惚れ薬を飲むことになった。問題は自分のグラスだが……。 (わたしのこのグラスは……まあ、適当な理由でもつけて捨てればいいか) フッ、こんな突発的なトラブルにも対応が出来るなんて、わたしも成長したわね……と心の中でほくそ笑むモンモランシーだった。 「はあ……」 ルイズは悩んでいた。 自分の手に入れた、伝説の『虚無』の魔法。 伝説と言うだけあって、恐ろしいほどの力である。自分には荷が重い。いや重すぎる。潰れてしまいそうだ。 (姫さまにも『わたしの力を捧げます』って言えなかったし……) もちろん、アンリエッタのために力を尽くしたい、トリステインのために身命を賭したいという気持ちはある。確かにあるのだ。 だが……。 ―――「私や銀河連邦警察の宇宙刑事たちに不可能なことを、お前たちはアッサリと成し遂げ、無力な人々に奇跡を見せる」――― あの夢の内容がフラッシュバックして、アンリエッタの前でその誓いを口にすることが出来なかった。 本当なら……あの夢を見る前の自分なら、あの場所で『虚無』を捧げることを誓って、そしてアンリエッタの命令に従って『虚無』を使って……。 ―――「その結果、人々に与える印象は何だ?」――― 夢の中の『仮面の男』は、救世主の存在を否定した。 ……では、自分はどうなのだろう? ―――「……お前たちは、自分たちより弱い立場にいる者を甘やかしているだけだ。偽善者面で神を気取っているだけなのだ」――― たかが夢、と一笑に付すには、あまりにも今の自分の状況と合致していた。 (わたしは……) そもそも自分は魔法が使えるようになったら、どうするつもりだったのだろうか? 立派なメイジになる。 今まで自分を馬鹿にしていた連中に、わたしの存在を認めさせる。 父さまや母さま、エレオノール姉さま……そして誰よりも、ちいねえさまに褒めてもらう。 ユーゼスに自分の存在を認めさせて屈服させる、その手始めにする。 じゃあ、その後は? (どう、するんだろう……) 普通に考えれば、それこそ普通の貴族の子女のように勉強して、教養を身につけ、しかるべき時期になったら結婚して……と、そんな感じである。 (……わたし、そんなことのために魔法が使えるようになりたかったんだっけ?) うまく言えないが、何か違う気がする。 チラリと横を見てみれば、相変わらず何を考えているのかよく分からない銀髪の使い魔が、自分と並んで歩いている。 確かに、自分の今の悩みをこの使い魔に打ち明ければ『それなりの答え』は出してくれるだろう。 それはもしかしたら、自分で悩んで生み出す答えよりも良い物かもしれない。 あるいは、自分で出した答えとほぼ同じ可能性もある。 だが……『他人の出した答え』で、果たして自分は納得が出来るのだろうか? 『他人が出した答え』を飲み込んで、自分の一部にして、それを元に自分の人生を歩いていくのだろうか? (それのどこに『わたし』があるの?) よって、この問題は自分で答えを出さなくてはならないのだ。 たとえ出した答えがどれだけ陳腐でも、ありふれていても、道を外れたものだとしても。 それは、『自分自身が出した答え』なのだから。 「はあ……」 しかし、その答えが分からない。 まあ、そんなに簡単に答えが出るのならば、こんなに悩みはしないのだが。 「……御主人様、どこまで歩いていくつもりだ?」 「え?」 ユーゼスに言われて周りを見回してみると、いつの間にか中庭のラウンジにまで歩いてきていた。 やはり考えごとをしながら歩くのは良くないわね、などと思っていると、自分の喉が渇いていることに気付く。 喉が渇いていては、思考も上手く回らない。 (どこか手頃な所に飲み物はないかしら) そう思って足を止め、視線をさまよわせると……手を伸ばせば届く場所に、ワインが注がれたグラスがあるではないか。まるで自分のために用意されたかのようだ。 なんか近くにギーシュとモンモランシーが見えるが、この際それはどうでもいい。 自分は今、喉が渇いているのである。 なので、ルイズはギーシュが手を伸ばそうとしていたグラスを横から奪い取り、それをグイッと飲み干すのであった。 時間は多少前後する。 ミス・ロングビルは、イライラしながら中庭を歩いていた。 理由は、自分の隣を涼しい顔で歩いているこの男……シュウ・シラカワである。 『ジェットビートルの調整作業がありましたので』とかいう理由で再び魔法学院にやって来たらしく、また律儀にも自分に挨拶をしに来たのだそうだ。 まあ、それはいい。 それ自体は別にいいのだが、こうも頻繁にウェストウッド村を空けていてはティファニアたちが危険に晒されることになってしまうではないか。 ただでさえ最近は、アルビオンに変な怪物(シュウは『アインスト』と呼んでいた)が出没して見境なく暴れているというのに、こんなタイミングであの村を無防備にするとは。 そのことをキツい口調で指摘したら、『そこまで心配することもないでしょう』とか言うし。 ……もっとも、『調整』とやらが終わったらとっとと帰るらしいので、確かに心配しすぎることもないような気がしないでもないと思うのだが……。 (って言うか、若い男とほぼ二人きりな状況で『心配するな』ってのも、かなり無理が……) ティファニアに限って『自分から迫る』みたいなことはまず無いと思うのだが、一時の気の迷いとかがあるかも知れない。いや、血迷ったシュウがティファニアに手を出す可能性だってゼロじゃない。 (う~~ん……) これをシュウに尋ねても、どうせやんわりと否定されるだけだろう。 なので、シュウの使い魔のチカに聞いてみることにしたのだが……。 「え!? ……い、いや、そんなコトは、ないですヨ? む、むしろティファニア様は御主人様とマチルダ様の関係を疑ってたりしてますし……」 何だかやたらと挙動不審な態度で否定される。 ……その誤解に関しては今度ウェストウッド村に行った時にでも解いておくとして、ミス・ロングビルはチカと話をしていて妙な違和感に気付いた。 口調がおかしいこと、ではない。 チカの外見が微妙に薄汚れているのである。 羽の端々が黒ずんでいたり、足の先に妙な白い物―――よくよく観察してみると、ロウであることが判明した―――がこびり付いていたり。 (飛んでたらロウソクにでも突っ込んだのかね?) ―――実際には、ティファニアが『チカ製作・御主人様とマチルダ様のやりとり報告書vol.1』を読んだ際に、その真偽を製作者に念押しする際に行った『ちょっと強めの確認』の結果だったりするのだが、さすがにそこまで思考が回ったりはしなかった。 (ま、いっか) ともあれミス・ロングビルにとっては、この鳥が火に突っ込もうが、焦げようが、ロウまみれになろうが、何をされようが、あまり重要でもない。 今の自分の仕事は、シュウが行う『調整』の監視である。 オールド・オスマンも、この出自も素性も正体も目的も不明な男に対しては一応の警戒心を抱いているようで、その監視を自分に命じてきた。 『君らは知り合いみたいじゃし』という理由だけでそんなことを命じないで欲しいが……確かに、学院内の教員や職員の中では自分が適任だろう。 ともかく、サッサと終わらせてもらって、とっとと帰らせよう。 そう考えながら、ミス・ロングビルはシュウと共に中庭を突っ切っていく。本塔から学院の外に出るには、変に回り道をするよりもこうして中庭を通る方が早いのだ。 ……と、その中庭に設置された簡単なラウンジに差し掛かったあたりで、 「ああっ!!?」 いきなり素っ頓狂な声が聞こえてきた。 「? ……ちょっと寄り道していくけど、いいかい?」 「構いませんよ」 シュウの了承を取ると、ミス・ロングビルはその声がした方に歩いていく。 今の自分はこの魔法学院の職員なのだから、そこで何かトラブルが起こったとなればそれに対応しなくてはならないのだ。 「おや、アレは……」 「たしかグラモン家の息子と、モンモランシ家の娘と……ミス・ヴァリエールに、銀髪の使い魔?」 正直、状況がよく分からないが……とにかく行ってみるべきだろう。 「ああっ!!?」 惚れ薬入りのワインを一気飲みしたルイズを見て、素っ頓狂な声を上げるモンモランシー。 一体何だ、と“ルイズを含めた”一同の視線が彼女へと集中するが、その視線の集中攻撃に対してモンモランシーは顔を思いっきり伏せることで切り抜ける。 「いきなりどうしたのよ、モンモランシー?」 「……な、何でもないのよ、ルイズ」 モンモランシーはテーブルに額をこすり付けながら返事をした。 「うーむ、いくら僕たちの乾杯をジャマされたからとは言え、その反応は酷いんじゃ……。なあ、ユー」 「そっちを見るなぁっ!!」 彼女のそんな様子を見たギーシュは“ルイズの隣にいる”ユーゼスに話しかけるが、それを察知したモンモランシーは即座に(ルイズの方を見ないままで)ギーシュの首根っこを掴み、その顔をテーブルに叩き付けた。 「ぶべぇっ!!?」 「?」「……?」 当然ながら、いきなり目の前でそんなことをやられたルイズとユーゼスは、モンモランシーの行動の意味が分からない。 一体何なのだろう、と主人と使い魔は顔を見合わせた。 見合わせてしまった。 「ぅ、あ……?」 「む?」 次の瞬間、ユーゼスを見ているルイズの様子が、目に見えて変化し始めた。 「……ユー……ゼス……」 「御主人様?」 瞳は潤み、顔は紅潮し、呼吸は荒くなり、挙動はソワソワし始め、ジリジリとユーゼスに近付いていく。 そんな主人に何か不穏な物を感じたユーゼスは思わず身構えるが、次の瞬間。 「ユーゼスぅっ!!」 「!?」 ルイズは、いきなりガバッとユーゼスに抱きついて、大泣きし始めた。 「……どうした、御主人様?」 「うっ、ひっくっ、どうして、どうしてエレオノール姉さまばっかりなのよ!!」 「???」 突然抱きつかれて唐突にそんなことを言われても、ユーゼスはワケが分からない。 「わたしのことは、ひっく、いっつもほったらかして、姉さまとばっかり! どうしてわたしを見てくれないのよ! ひどいじゃない! うえ~~~ん!!」 「……取りあえず落ち着け、御主人様」 何とかしてルイズをなだめようとするユーゼス。 「…………うぅむ、何だかルイズがいきなり錯乱し始めたようだが……。とにかく乾杯の続きと行こうじゃないか、モンモランシー」 「えっ!? あ、ああ、うん、そう……ね」 ギーシュは即座に復活するとルイズの様子を『どうせいつものプチ修羅場だろう』と判断して、額にアザを作ったまま黒髪のメイドに命じて替えのグラスを用意させた。 メイドはたまたま使っていないグラスをトレイに乗せていたので、グラスの交換は非常に手早く、スムーズに完了する。 「何はともあれ、かんぱ……」 「あっ! わ、わたしのグラスの中に、虫が入ってしまったわ!!」 それではいざ乾杯、という段階になって、再びモンモランシーが声を上げた。 ……何せ、彼女のグラスには2分の1の確率で惚れ薬が入っている。 それを知っているのは他でもない彼女自身のみなのだが、それを知っているからこそ、そんなバクチを打つわけにはいかない。 「何と……無粋な虫だね」 「そ、そうね! 取りあえず、このワインは捨てましょうか!!」 そしてモンモランシーが自分のグラスに入っているワインを地面に向かってバシャッと捨てようとしたその時。 「……ミス・モンモランシ。ワインをこぼしてしまうのならともかく、地面に向かって自分から放ろうとするのはどうかと思いますが」 「ミ、ミス・ロングビル!?」 後ろから現れたミス・ロングビルが、モンモランシーの行動を止めたのだった。 慌ててモンモランシーは『即席の理由』を説明する。 「あ、いえ、違うんです、ミス・ロングビル。実はこのグラスの中に虫が入ってしまいまして、さすがにそれを飲むのはちょっと……」 「虫ですか?」 モンモランシーが持っているグラスを、その手から取るミス・ロングビル。 ……モンモランシーとしても、残念なことに『虫が入っているはずのグラスに固執する理由』が思い浮かばなかったため、大して抵抗も出来ず渡すことになってしまった。 「……? 虫なんて入っていませんよ?」 「そ、そ、そうですか? 見間違いだったのかなー?」 陽光に透かしてグラスの中を検分するミス・ロングビルだったが、その中には虫どころかホコリ一つも全く見当たらない。 しかしこの態度を見るに、どうやらモンモランシーはこのワインが飲みたくないようだ。 かと言って、捨てるのも……もったいない。 「では、私がいただきます」 「ええっ!!?」 「?」 ミス・ロングビルはいきなり仰天したモンモランシーを訝しげに見るが、彼女は口をパクパクさせるだけでイマイチ要領を得ない。 (潔癖症か何かなのかねぇ……) 実際に見るのは初めてだが、このような人間はいる所にはいるのだなぁ……などと変な感心をしながら、ミス・ロングビルは2分の1の確率で惚れ薬が入っているワインを、そうとは知らずに飲む。 「んく」 別に上物というわけではないが、それなりに良いワインであった。特に異物感などはない。 ……ふと見れば、モンモランシーは全力で自分から目を背けている。 「ミス・ロングビ」 「見るなって言ってんでしょうがぁっ!!」 飲んでから最初に認識したモノに対して全力で愛情を注ぐ薬を『飲んだかもしれない』ロングビルに対して話しかけようとしたギーシュを、モンモランシーはその顔を地面に叩き付けることで阻止した。 「ごびゅおっ!!? ……は、ははは、嫉妬かい、モンモランシー?」 顔面が地面にめり込んだ状態で、そんなことを言うギーシュ。意外とタフなのかもしれない。 「い・い・か・ら! 下手に視線を動かしたりするんじゃないわよっ!!」 「ああ、君の愛が痛い……、そして、苦しい……よ、モン……モラン……シ……ィ……」 「?」 「……ふむ?」 そんな若い金髪同士のカップル未満のやりとりを見て、ミス・ロングビルとシュウは首を傾げる。 まあ男と女の間には、当人同士でしか分からない『何か』があるものだが……。 (……どうでもいいか) 少し離れた場所では、ヴァリエールの桃髪の娘と銀髪の使い魔が何やらやっているようだが、それも自分にとってはどうでもいい。 「それより早く……」 チラリとシュウを見ると、彼は桃髪の少女と銀髪の男のやりとりを薄く笑みを浮かべながら見ていた。 「…………ん……」 そんなシュウを見ていたら、ミス・ロングビル……いやマチルダ・オブ・サウスゴータの心の中で劇的な変化が発生し始める。 「……え?」 ハッキリ言って、マチルダはこのシュウ・シラカワという男があまり好きではなかった。 そりゃあ確かに優秀らしいし、ネオ・グランゾンなんて巨大なゴーレムともガーゴイルとも付かない物を操ったりするし、一応美形ではあるし、一見すれば『いい男』に見えなくもない。 だが、どうにも色々と謎が多すぎるし、うさん臭いし、イマイチ信用出来ないし、何よりいけ好かない。 この男に対する『好意』がゼロという訳ではないが、それよりも圧倒的に『疑念』や『警戒心』の割合の方が勝っていた。 ……そのはず、だったのだが。 「ぁぅ……」 どうしたことか、たった今シュウを視界に入れた瞬間、彼への好意が爆発的に増大した。 理由は分からないが、溢れる感情は留まることを知らず、いても立ってもいられない。 「っ、シュウ……!」 「む?」 思わずシュウの名を叫びながら、マチルダはシュウの元に駆けて行き、そしてピトッと張り付いた。 当然、いきなり張り付かれたシュウは意味が分からない。 「ミス・ロングビル?」 「ああん、マチルダって呼んでぇ……」 「…………何をされました?」 「はぅぅう~~……」 シュウは瞬時にマチルダの身に『異変』が起きたことを看破し、確認しようとする。 だがマチルダは酩酊と言うか、理性が著しく欠如していると言うか、平たく言うとメロメロ状態なので、マトモな返答は返って来なかった。 「ふぇええ~~~ん! ユーゼス、ユーゼスぅ~~!!」 「だから落ち着けと言っているだろう」 見れば、ユーゼスの主人であるルイズも明らかに様子がおかしい。 (何が起こったのかは分かりませんが……) とにかく、一度状況を整理する必要があるだろう。 そして……。 「ミス・モンモランシ……でしたか?」 「は、はいいっ!!?」 コソコソと逃げようとしていた金髪巻き毛の少女を呼び止めるシュウ。 ここ数分ほどの間ではあるが、この少女の様子は明らかにおかしい。 「少しお話を伺ってもよろしいでしょうか? 私とミス・ロングビルと、ユーゼス・ゴッツォとミス・ルイズも交えて。……『何の話』かの説明は、必要ありませんね?」 「は、は、はははははい……」 その眼光に底知れぬ圧力をにじませながら、シュウはモンモランシーに詰め寄ったのであった。 彼の『詰問』を受けたモンモランシーは、後に語る。 『シュウ・シラカワとその周辺の人間に対しては、迂闊に手出しをするな』、と……。 その日の夜。 「惚れ薬ぃ!?」 「ちょ、ちょっと、大声を出さないでください、ミス・ヴァリエール! 禁制の品なんですから……!!」 ユーゼスの研究室の中で、コメカミと表情とその他の部分をヒクつかせながら、エレオノールはことの顛末を聞いていた。 まずこの金髪巻き毛の馬鹿が、こともあろうに禁制の『惚れ薬』を作り。 それを隣にいる金髪のボンボンに飲ませようとして。 間違って自分の妹と、学院長の秘書がそれを飲み。 今はそれぞれユーゼスとシュウに対して、その効果を十分に発揮している真っ最中。 見れば、椅子に座っているユーゼスの膝の上にはルイズが腰掛けて、ユーゼスの両腕を自分の身体に絡ませている。 更に、同じく椅子に座っているシュウの横には学院長秘書のミス・ロングビルが……いるにはいるのだが、床の上に寝そべって『シュウぅ~……』などと寝言を呟きながら眠っていた。 「このような相手の場合は、眠らせるのが一番です」 ……どうやら『このような相手』に対して、慣れているようだ。 『それをルイズにもやってくれ』、とエレオノールは頼んだのだが、『私の問題を私が対処するのはともかく、あなた方の問題を私が対処する理由はありませんね』と返されてしまった。 なおも食い下がろうとすると、ユーゼスに『諦めろ』と止められた。どうやらこの男には何を言っても無駄らしい。 まあ、それはともかく、今後のことである。 「……………」 エレオノールはしばし瞑目して考えた後で、一つの結論を出した。 「まずはこの馬鹿な子供の所業を、余す所なく王宮に報告しましょう。 ……罰金で済めば良いわねぇ? 何せ公爵家であるヴァリエール家の三女、しかも女王陛下とも個人的に親交のある人物ををこんなにしてしまったんだから。下手をすれば禁固、縛り首、お家断絶……なんてことにならなければ良いけど」 「そ、そんな……!」 顔面蒼白になるモンモランシー。 冷ややかな瞳をそんな少女に向けながら、エレオノールは冷徹に言い放った。 「それが嫌なら、早く解除薬を作りなさい。今日を含めて2日だけ待ってあげるわ」 「で、でも、それを作るための材料である秘薬は、とっても高くて……」 「借金でもすればいいじゃない」 「う、うう……」 モンモランシーは涙目になりながら、ガックリと肩を落とす。 ギーシュは気落ちするモンモランシーを慰めようとしたが、そのモンモランシーに『お金貸して、500エキューほど』と言われたので思わず2、3歩ほど後ずさってしまう。 「……で、解除薬については待つしかないとして……」 エレオノールの性格ならば『今すぐ作りなさい。は? 無理? じゃあ潔く王宮からの罰を受けるのね』とでも言いそうなものだが、そこは彼女も魔法の研究者である。 強力なポーションが一朝一夕で作れるものではないことくらい、知り尽くしているのだ。 なので、当面の問題は。 「ね、ユーゼス。もっとぎゅーってして?」 「……やった後で『苦しい』とか言われても困るのだが」 「ううん、いいの。ちょっとくらい苦しくても、ガマンするから……して?」 現在進行形で惚れ薬の影響を受けまくっている、この愚妹である。 エレオノールは元々つり上がり気味の目を更につり上がらせて、ルイズにピシッと言い放った。 「ちょっとルイズ! いつまでもユーゼスにベタベタしてるんじゃないわよっ!!」 言われたルイズはチラッとエレオノールを見ると、面倒そうにボソッと呟く。 「……やだ」 「な、何ですって……!?」 ワナワナと震えるエレオノールだったが、そんな姉の様子などどこ吹く風、とばかりにルイズはユーゼスにしがみつく。 「ユーゼスはわたしの使い魔で、わたしのモノなんですから、姉さまは引っ込んでてください」 「こ、この……! いいから離れなさいっ!!」 「いやぁ!!」 頭に血が上ったエレオノールはルイズを強引にユーゼスから引き剥がそうとするが、そうするとルイズはますます強くユーゼスにしがみ付く。 「助けてユーゼス、エレオノール姉さまが苛めるの!」 「いや、別に苛めてはいないと思うのだが……」 ユーゼスも、どうやら今の状態のルイズを扱いかねているようである。 「ともあれ、この状態が長く続くのは好ましくはないな。ミス・モンモランシの手腕に期待するしかないだろう」 「……ああもう、次から次へと問題が出て来るんだから……!」 「既に起こってしまったことに対して、文句を言っても始まるまい」 「文句の一つや二つも言いたくなるわよっ!!」 実を言うと、ユーゼスやシュウの手にかかればこの程度の事象など一瞬あれば解決は出来る。 しかし、『そんな下らないことに自分の力を使いたくない』、『人格に何らかの影響が残る可能性がゼロではない』、『“解決手段”の説明が面倒』、『これはこれで興味深い』、『イザとなったらいつでも元に戻せる』などの理由から、それをしていなかった。 (とは言え……可能な限り、早く戻さなくてはならないな……) ユーゼスとしては『研究がやりにくい』というのもあるが、それよりも大きな問題があった。 ……普通の人間に比べてかなり薄くはあるが、一応ユーゼスにも性欲はある。 ルイズのような少女に対して欲情する……というのは考えにくいのだが、しかしこうも身体を密着させられてはいつ自制が利かなくなるか分かったものではない。 1週間程度ならそれなりに耐えられる自信はある。しかしこれが1ヶ月や1年となると、取り返しのつかない事態になっても不思議ではないのだ。 (クロスゲート・パラダイム・システムを使って……いや、性欲だけを抑制するとバランスが悪くなるな。食欲と睡眠欲、排泄欲や生存欲求も抑える必要があるか?) そこまですると、もはや『人間』以前に『動物』としてどうかというレベルである。 「何にせよ2日で終わるのならば、その間は耐えるしかあるまい」 「『耐える』、ねえ……」 ジロッとユーゼスを見るエレオノール。『ナニを耐えるって言うのよ』とその目が語っていたが、あえてユーゼスは無視する。 と、そんなユーゼスにルイズが声をかける。 「ユーゼス、エレオノール姉さまだけじゃなくって、わたしも見て? ううん、他の女の人なんてどうでも良いから、わたしだけを見て?」 「……………」 「っ…………!!」 ユーゼスはそろそろ辟易し始め、エレオノールはそろそろ我慢の限界に近付きつつあった。 「……ミス・ヴァリエールとの話が終わったら考えよう」 取りあえず、なるべくソフトに問題を先送りしようとするユーゼス。 しかし。 「今すぐじゃなきゃヤダぁ!」 ルイズは駄々っ子のように声を上げ、即時実行を要求してきた。 仕方がないので、一応肯定しておくことにする。 「…………分かった」 「ホント? ちゃんとわたしを見てくれる? エレオノール姉さまなんて放って、わたしだけを見てくれる?」 ミシリ、とエレオノールの立っている位置から、床板が軋んだ音がした。 ……何故か分からないが、エレオノールに対して後ろめたさを感じる。それとエレオノールの方を見るのが怖い。 だがここでルイズを拒絶するとまたギャーギャーとうるさくなるので、ひとまず肯定せざるを得ないのだ。 「『相手をする』という意味であれば、そうするが」 何とも当たり障りのない表現である。 しかし、言われたルイズはその言葉を最大限好意的に解釈した。 「じゃあ、キスして」 「何?」 ベキ、と床板が割れる音が響く。 「……あらやだ。ちょっと力を入れただけで割れちゃうなんて、もろい床板ね」 金髪眼鏡の女性に対しては色々と言いたいことはあるのだが、迂闊な発言が出来る雰囲気ではなかった。 「……………」 「ん~~……」 目を閉じて唇を突き出してくるルイズ。 (むう……) 別にユーゼスとしては唇を付けるくらいはどうだって構わないのだが……ここは一応、肉親の許可を取っておいた方が良いだろう。 「ミス・ヴァリエール、構わないか?」 少なくとも表面上は平静な口調でそんなことを問いかけてくるユーゼスに、エレオノールも『努めて平静な口調で』答える。 「…………………………す れ ば ? 」 「ぬ……、分かった」 今まで感じたことのないタイプの恐怖がユーゼスの身体を駆け巡るが、いつまでもエレオノールに構っているわけにもいかない。 それでも何となく気まずさのような物を感じたので、ユーゼスは手早く無表情かつ事務的に、軽くルイズの頬に唇を付けるのだった。 「これで良いのか?」 ユーゼスとしては『これで主人もひとまずは大人しくなるだろう』と目論んでいたのだが……。 「む~……、ほっぺじゃイヤぁ~!」 あまり効果はない、どころか逆効果だったらしい。 「……ならば、どうしろと?」 ルイズは小首をかしげて、ユーゼスに可愛く懇願する。 「ちゃんと、お口にして?」 「……………」 ユーゼスは『可愛い』という概念がよく分かっていないので、その仕草に大した効果はなかったのだが、それでも『唇にしなければいけないのだろうな』という程度の判断は出来た。 「使い魔の契約とか、プラーナの補給とかじゃなくって……ちゃんとしたキス、して?」 なおも懇願を緩めないルイズ。 念のため、再びエレオノールに対して確認を取ろうと視線を向けたら、 「……………………………………………………あ゛?」 物凄い目で睨まれた。怖かった。 ……このままではどうにもならないので、ユーゼスはやむを得ずルイズの唇に自分の唇を触れさせる。 「ん。……ん!?」 「んん~~~……!」 と、唇と唇が触れた瞬間、ガシッとユーゼスの頭がルイズの両手に掴まれた。 「むぐぅ!?」 「んむんむぅぅぅううう~~~……!!」 更にルイズは唇と舌の力を駆使して、ユーゼスの口内へと侵入を試みる。 「……む、ん、ぐ……!」 いきなり不意を突かれる形になってしまったユーゼスは、その『口撃』への対処が出来ない。 「ん、ふぅ、んん……、んぅ、あむっ……」 「くっ……ん、ぐ、む……っ」 うわあ、と赤面するギーシュとモンモランシー。シュウは苦笑しており、そしてエレオノールはギーシュたちとは違った意味で赤面している。 そしてルイズがユーゼスの口内から『ちゅぅぅうううううううう~~~っ』と色々と吸い始めた時点で、エレオノールが全力でルイズの頭を引っぱたき、二人のディープキスは終わったのであった。 それに満足したのか、『にへらー』と笑うルイズを見ながら、エレオノールはワナワナと震えている。 「ああ、もう!! ヴァ、ヴァリエール家末代までの恥だわ……!!」 妹に対して、未だかつてないほどに怒りが湧き上がってくる。 ……なお、これはあくまで『ユーゼスに堂々とベタベタイチャイチャする、もはや貴族としての恥も外聞もかなぐり捨てているルイズに対しての怒り』であって。 決して『大して抵抗もせず、されるがままになっているユーゼスに対しての怒り』だとか、『あんなにベッタリ出来るルイズが少し、ほんの少しだけ羨ましい』などというイライラでは、断じてない。 …………ないったら、ないのである。 「とにかく、ミス・モンモランシ! 1秒でも早く解除薬を作りなさい!! いいわね!!?」 「はっ、はいぃぃぃいい!!」 「ああっ、モンモランシー!」 エレオノールに怒鳴られてモンモランシーは半泣きで応じながらも自分の部屋に走っていき、ギーシュはその後を追っていった。 「では、私は部屋に戻るとします。何かありましたら、呼んでください」 それを見届けたシュウもまた、『これ以上ここに留まっていても意味がない』と判断して退室しようとする。 「……良いのか? ミス・ロングビルも御主人様と同じ状態なのだろう?」 「構いません。……サフィーネやモニカに比べれば、むしろ扱いやすい方と言えるでしょう」 「そうか」 この男の女性関係はどうなっているのだろう、とも思ったが、そこに探りを入れてもあまり意味がないので黙っておく。 「では、また明日に」 そうしてシュウは、眠ったままのミス・ロングビルを抱えてユーゼスの研究室から出て行く。 前ページ次ページラスボスだった使い魔